準備→完了
ドイツを三分し生きている者に地獄を見せたかの内戦が終わってから約五年、大ドイツは着々と復興しつつあった。特に軍事面の発展が著しく、終戦から僅か一年で新型105mm砲を搭載した現代的な戦車であるE55に全機甲師団に配備された軍用ヘリコプター、機甲師団同様にヘリコプターを装備し加え
海軍は内戦後に全て自沈処分が採られたために艦艇がゼロであったが、ハイドリヒ直轄地であったクリミアに残存していた旧式の駆逐艦五隻と数十隻の武装小艇、四十隻の
空軍は戦後にメッサーシュミットやユンカースの技術者が国外に亡命したために生産が遅れたものの、ジェット戦闘機である
そして、ヘロルトは科支援目標を達成した旨をハイドリヒに伝えるべくゲルマニアにある親衛隊本部へと向かった。
「ヘロルトです」
「入れ」
「失礼いたします。やはりこちらにおられたのですね……ハイドリヒ総統」
ヘロルトがドアを開けた先には椅子に座ってコーヒーを啜るハイドリヒがいた。
「総統官邸も新築されましたが、あの"凄惨な事件"を考えるとなんだが縁起が悪いですし」
「そう言われるのも納得です。かつてのデーニッツ総統が死んだ部屋ですからね。たとえ新築されていようとも、いつあのような事件が起こるかわからないですし」
「本当にそうですよ……今でも総統室にいるのは面会の時だけにしています」
「ハイドリヒ総統、本日はご報告があって来させていただきました」
「報告、とは?」
ずっとヘロルトに背を向けていたハイドリヒが首だけを回しこちらを見ながらその報告の内容を問うてくる。
「"最終戦争"の準備が整いました」
「ご苦労。こちらの研究もほぼ完了したのでそろそろいい頃合いでしょう」
「大陸間弾道ミサイルの事ですね」
「御名答。すでに実戦配備が可能になりました。手塩にかけて開発した甲斐がありましたね。米英は必死に爆撃機の航続距離を伸ばしていますが雑種国家らしい古臭い考えです。時代はミサイルです。1959年でここまで研究が進んでいるとはトロント共は考えてもいないでしょう。彼らは対ミサイル設備なんて持ち合わせていない。これに核弾頭を乗せてしまえば一度発射すれば阻止不可能な核攻撃が可能となる訳ですよ」
「それは完璧な"抑止力"となりますね」
「"抑止力"?ヘロルト司令官は勘違いをしているようですね」
「それはどういう……?」
「じゃあ聞きましょう。時期に始まる最終戦争、この"最終"とはどのような意味ですか?」
「それは、"最後の世界大戦"ということではないのでしょうか?」
「なるほど、そこを勘違いしているのですね。最終戦争の本意は『人類問題の"最終的解決"を行うための戦い』ということです」
「最終的……解決……!? ユダヤ人問題のですか!?」
「いいえ、全人類が抱える問題の解決です。この戦争の末には我々が悩まされてきたすべての人種問題が解決され、アーリア人の楽園が完成するでしょう!」
「しかし、それはユダヤだけの話では?」
「ユダヤ人の最終的解決の話をしているのでしょうが、それはヒトラー閣下が望んでいた"人類の再編"の序章にすぎません。まったく、なぜ皆この質問をするのか……」
「しかしアメリカ人やイギリス人、その他の人種を処分する必要があるのかと……」
「あなたは一度でもヒトラー閣下の『我が闘争』を読んだ事がありますか?」
「勿論です……」
「実はそこに劣等人種はユダヤ人以外にもイギリスやフランス、アジアや黒人も列挙されているのですよ。知らなかったですか? それと我々はスラヴ人を何と呼んでいましたか?」
「
「人間以下の存在と決めて我々は何人のスラヴ人を始末してきましたか?」
「三千万人です……」
「その飢餓命令を出したのは誰ですか?」
「アドルフ・ヒトラー総統閣下です……」
「そう、結局すべて公約通りなんですよ。千万のユダヤの殺戮も、三千万のスラヴの殺戮も、ポーランド人やオランダ人の奴隷化なども。多くはドイツのマニフェストとして掲げられていましたし、我々もヒトラー閣下から実際に何度も聞いていたはずです。私はこの政策は正しいと思うが、もしこの計画を"怪物"と呼ぶのならばその怪物を容認したのはドイツ国民でしょう?」 彼らは怪物を認めているんですよ!」
「……して、次の目標はヒトラー閣下が何度も仰っていた……国際ユダヤの本拠地……アメリカの……破壊……」
「よく知っているではありませんか。皆知っているのに見て見ぬふりをしていたのです。ですがこの思想を信じる私は目を背けません。私は必ず核の力を実力としてヒトラー閣下の夢であった人類の再編を果たすのです!」
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