ゲルマニア攻略戦

 ドイツが内戦状態に突入してから四日後、ゴロゴロ、ガタガタと音を立てながらクルト・マイヤー少将率いる第一装甲師団はドルトムントを越え、ハノーファーへと向かっていた。

「見た限り敵部隊の展開は遅れているようだな……」

 第一SS装甲師団第一戦車連隊第二中隊長のカール・アイヒェンドルフは砲塔を後ろに向けたE50戦車のキューポラ司令塔から身を乗り出し、農村地帯の開けた平野を見渡してそう呟く。

 戦車兵野戦服の上にパンツァージャケットを纏い、SSの象徴たる制帽を被り、その上から通話用のヘッドセットを頭にのせて胸元には双眼鏡が下がっている。

 戦車のエンジンが激しく揺れながら動き出すのをまだかまだかと待ち続け、大きな振動音を響かせる。

「《フューラー01》から各中隊長へ。横一列に展開。そのまま前進。送レ」

 ヘッドセットに上官、マイヤー少将の声が届き、カールは咽頭マイクの送信ボタンに手をかけ

「《イェーガー13》、了解」

 そう返答してから続いて通話モードを連隊から中隊へと切り替え

「イェーガー13》から各小隊長へ。各社横一列に展開。第五小隊は第四小隊を中心に右翼側。第六小隊は第四小隊を中心に左翼側に展開。各車に送レ」

 カールがそう言った後に13号車はわずかに増速し、車体を左に寄せ始める。無線の届くヘッドセットには各車から了解の合図が送られている。そして彼は視線を左右に巡らせ、偵察車の動きや地面の様子を注視した。操縦手は極めて狭い覗き窓を通して外を見るため、車長によるサポートが不可欠なのである。

「いいぞ、進路もどせ」

 カールはタイミングを見計らい、操縦手へそう伝えた。13号車は進路と速度を修正し、中隊長車と並走しはじめる。主砲の向きを正面に戻していると、左側に僚車が次々にならんでいった。

 中隊は隊列を整えると全身を開始しハノーファー郊外に到達したところでマイヤーから一本の伝令が入る。

「《フューラー01》から各中隊長。臨時司令より伝達『敵が展開するより早く渡河されたし』」

 無線が途切れるのと同時に横一列に並んでいた戦車隊が一斉に増速し、中隊としての枠組みを崩さない程度に散開しラべ川を目指した。


 そして第一装甲師団は三日かけラべ川を渡河し、ハノーファー全域を制圧。帝都ゲルマニアに向けて猛進撃を開始していた。第一装甲連隊を第一装甲旅隊、第二装甲旅隊、第三装甲旅隊の三つの特殊編成に分割し南北からゲルマニアへと侵入する。

 十数両という戦車が列を成し、高出力エンジンが震える音が静かな郊外住宅地に響き渡る。もともと第二中隊中隊長であったカール・アイヒェンドルフは全体指揮の必要がある第一中隊長兼装甲師団長のクルト少将に代わり第一装甲旅隊の旅隊長となった。

「そろそろナチ党の部隊が展開し始めるはずだ。パンツァー・ファウストとパンツァー・シュレックなら重装甲のE50でも易々と貫徹される。気を引き締めていくぞ!」

ハッチを閉めてキューポラの中に入ったカールが搭乗員に檄を飛ばす。

砲手、装填手、操縦手、全員の表情が変わり、ピンと糸を張ったような緊張感が車内を包み込む。

 キューポラを閉じペリスコープで周りの状況を注視しながらカールは無線の送信先を中隊長車両に設定し

「《旅隊長》より各車。只今より戦闘態勢に入れ。相手は地の利を生かして肉薄してくるはずだ。左右方向の確認を怠らず、気を引き締めていけ。只今より第一装甲旅隊隷下の車両のコールサインは《ファウスト》。繰り返す。只今より第一装甲旅隊隷下の車両のコールサインは《ファウスト》だ。13号車の場合、《ファウスト13》となる。以上」

 無線の送信を停止すると全車両が了解の無線を発し、ついに第一旅隊は作戦行動を開始した。

 無限軌道がキリキリと音を立て、50トンの車両を前進させた。

 ふと、遠方に縦に上がる白い煙が見え、それと同時に砲弾が爆音とともに地面に刺さり土煙が上がる。

「砲手! 十一時の方向! 高台からだ!」

「車長! 榴弾装填しました!」

「照準は合ってるか!?」

「しっかりと合わせています!」

「敵斜め左方向! 距離八百! ってー!」

 砲弾が砲身の中を回転しながら大きな咆哮とともに射出され、それは針に糸を通すように美しい軌跡を描きながら砲兵壕に着弾し、爆発する。

「敵の沈黙を確認!」

 砲手が照準器で敵の沈黙を報告し、一時的な交戦は終了した

「砲兵が一つだけとは、少し不自然だな……まさか……」

 心に一抹の不安を抱えるカール少将率いる第一装甲旅隊はゲルマニア市街へと足を踏み入れたのだった。

 そして市街地の境界に足を踏み入れたと同時に後方にいた第8号車と9号車が同時に火を噴いた。無線機から「九時方向だ!」と叫び声が聞こえる。各車にしがみついていた随伴歩兵が飛び降り、四方八方に分散し建物の中では銃撃戦を、大通りでは白兵戦を繰り広げた。あらゆるところで血しぶきが飛び、ビルからナチ党軍の死体が降ってくる。その死体は進撃する戦車に踏みつぶされ、『軍人の死体』は『人間だった何か』に様変わりする。

少し遅れてIFV歩兵戦闘車で武装した装甲擲弾兵が展開されれ、白兵戦が展開される大通りに擲弾や機関銃をお見舞いし、支援を行う。

 六年という長い年月を経て完成まで漕ぎ着けた世界首都ゲルマニアはその名に相応しくないあちこちに硝煙と血しぶきが舞い、死体が転がる悲惨で血生臭い都市へと一瞬で変貌した。

 そして激戦の最中にマイヤー率いる第一装甲師団の全部隊がゲルマニアに到着、合流し『フォルクス・ハレ』を制圧したとき、ゲルマニアは完全に親衛隊の掌中に落ちた。


 ゲルマニアを占領した装甲師団は破竹の勢いでナチ党の新造師団に連勝し、占領から二日後にはオストプロイセン方面への侵攻を開始した。そして司令部からオストプロイセン地方の占領に関する作戦概要が通達されたとき、臨時総司令ハインリヒ・ヒムラーは

「相手は戦闘のプロ、国防軍だ。一筋縄ではいかない。たくさんの戦友なかまを失うことになるだろう。各員全力をもって敵勢力を叩き潰せ! かつての仲間に慈悲などいらぬ。ひたすら進撃して、叩き潰して、燃やして、殲滅しろ!」

 そう戦闘に参加する第一装甲師団員を激励した。

 

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