第三章 ドイツ内戦
Ⅲ-Ⅰ 三つ巴、共倒れ
作戦会議
首の皮一枚という危機的状況でもなお帝政を維持していた労働者党であったが、ヒトラー総統の死亡によってついに崩壊が始まった。
平和的な新総統の選出のため、そして新総統の座を狙うヒトラーの元秘書ボルマンを失脚させようと国防軍とナチス、親衛隊は少なくとも協力しているように見えた。
結果三勢力で選定したカール・デーニッツ海軍元帥がボルマンを打ち崩し新総統に就任し政治的混乱は終結したように思えたが就任直後に何者かによって爆殺され、貧しい平穏は一つの死で完全に崩壊。ゲッベルスは暗殺をドイツ国防軍が主導したと認定し国防軍の実質的最高司令のマンシュタインの逮捕を命じたが彼は出頭を拒むとともに決起した。
状況の沈静化を図る与党ナチスは疑わしい親衛隊幹部の拘束を命令。政治内戦の火の粉はドイツ親衛隊にまで降りかかりついにナチス、国防軍、親衛隊の三勢力で『真のドイツ』を決めるドイツ内戦が始まってしまったのだ。
かつて輝かしい勝利を収めたかの覇権国家の姿はもうない。そこには泥沼とかした政治的混乱と経済難に侵食され分断した『瀕死の重病人』がいるだけだ。
ナチ党による幹部の殲滅作戦が行われる中、ハイドリヒやオーレンドルフ、ヘロルトとヒムラーは旧フランス領であり親衛隊の臨時前衛基地のある、アンネヴィルの地へと向かった。
「第一装甲師団、今到着した」
「ヒムラー長官ですか。そういえば、親衛隊大将の指揮からヒムラー長官に指揮権を寄越してからそのままでしたね。あと、今日は時間通りなんですね」
「国家の緊急事態に遅刻なんかしていられる訳がなかろう」
ヒムラーはそう言って、額に垂れた汗を拭う。
「約四百キロの道のり、お疲れ様でした。ヘロルト大将とオーレンドルフ局長はどこですか?」
「オーレンドルフは私と一緒に到着した。今はほかの隊員と一緒に物資の分配作業をしている。ヘロルト大将は移動中に国防軍から攻撃を受けて第十三装甲擲弾兵師団と共に交戦しているそうだ」
「国防軍……? 奴らはもはや国賊ですから、呼び名としても『反乱軍』が相応しいでしょう」
「そ……そうだな……」
「さ、すでに作戦会議が始まっていますので、司令部に急いでください」
「ああ、わかった」
そう言って彼はハイドリヒの後を追って歩きだした。
「この建物は……マジノ線のものか……?」
「ええ。ここはメッス要塞と呼ばれた旧フランス軍の要塞です。解体費があまりにも高いので放置していたのですが、それが功を奏しましたね」
「フランスの要塞に入って
「気にすることはありませんよ。我が総統もミュンヘンで一揆を起こした際、ベルリンに銃口を向けました。あの時と同じく、これは反逆者に対する聖戦です。あえてムスリムの言葉を借りるなら『ジハード』でしょうか」
「ジハード……か……」
「我々も総統閣下に見習い確固たる精神で敵を撃滅すべきでしょう」
「そうだな」
「だいぶお疲れの様ですが、今は何せ非常事態なので。親衛隊保安部が入手した情報は保安部が入手した情報はオーレンドルフに隊員伝いに渡しておきました。それを元に作戦会議を行ってください。私にはやることがありますので……」
「了解した。では」
ヒムラーはハイドリヒの横を通り過ぎ、メッス要塞の中に入って行った。
要塞の中へ入るとご丁寧に『会議場』と書かれた看板が壁に掛けられ、その指示に従ってその場所へ向かってみると様々な所属の武装親衛隊将校が椅子に座っていた。
「遅れてしまって申し訳ない。ヘロルト大将は反乱軍と戦闘中で、遅刻もしくは欠席となる。では今から、作戦会議を始めよう。では始めにオーレンドルフくん、今のドイツの現状を教えてくれ」
指名されたオーレンドルフは立ちあがり、書類の内容を読みあげる
「今現在、ドイツ領内はナチ党、国防軍、親衛隊の三つに分裂しています。制圧している地域としてはゲッベルス率いるドイツ国家社会主義労働者党はベルリンを含む中央部と北部。マンシュタイン率いるドイツ国防軍はチェコなどの西部、そしてヒムラー長官が指揮する我ら親衛隊はメス、ネーデルラントなどを含む西部です。またほかの情報ですが、ポーランドが独立を宣言しました」
「こんな状況ならば、対応できる勢力もいるはずも無いな」
「はい。おっしゃる通りで。現状、ポーランドと交戦している勢力は無いようです」
「我々はドイツ本国から追い出されたような位置にいるわけだが、戦力日はどうなってるんだ?」
「戦力ですが、親衛隊が約五十六万人、ナチ党は約八十万人、国防軍は約百十万との情報でありナチ党や国防軍は正規軍が大半を占めていますが、我々の歩兵は全て武装親衛隊です」
「親衛隊員か。所詮週に一回の軍隊ごっこをしていた程度の民間人だ。一対一では射撃から手榴弾の訓練までしている正規軍にはが立つはずがない」
「成人男性の全員徴兵を命令したため人的資源は膨大にありますが……」
「すぐに十五万人の新部隊の編成をしろ」
「それが、武装の備蓄は国防軍が管理していたため、戦車を除いた全ての物資が枯渇寸前であり、小銃や対戦車火器も深刻です。さらに悪化した状況であるのは航空機と海軍であり、全て国防軍に奪われた状態にあります」
「つまりはジェット戦闘機もレシプロ機喪一機たりとも無いということか」
「おっしゃる通りです」
「武装航空親衛隊も作っておくべきだったか……とりあえず備蓄は第二次世界大戦の時の余剰を充てろ。マシンガン相手に単発式のボルトアクションライフルじゃ太刀打ちは難しいかもしれないが、ないよりは遥かにマシだ」
「了解致しました」
「しかし、完全に貧乏くじを引いたな。だが、やらなければならないのだ。我が軍の唯一の救いは世界最強クラスの機甲戦力だ。これで状況を覆すほかない。幸いナチ党や国防軍と違って戦線が一つなのが戦いやすいな。北側の敵軍の配置はどうなっている?」
「保安部からの情報によると未だ配備が間に合っていないとのこと」
「なら、そこを貫け。ハノーファーを突破し、ラベ川を渡河。そのまま帝都ゲルマニアを奪還する!帝都さえあれば我々の正当性は確保できる。その混乱に乗じてさらに東部に進撃しプロイセンを分断せよ!もしこれが成功すればナチ党の兵力を瓦解させながら経済基盤も確保できる。誰かロンメルを……」
「彼は……国防軍に付きました……マンシュタインも、グデーリアンも……パウルスもケッセルリングも居ません……」
「
「私が……私がやりましょう!」
「戦車を使うのでしょう?ならば是非、
「そうだな。幾度となく命の危険に晒されながらもそれを乗り越えてきた君だ。一番槍は頼んだぞ!」
「ええ!お任せください!」
「それでだ、備蓄の戦車も全て動かせるようにしておけ。敵が二正面の戦線を持ち、なおかつ体制が整っていない今がチャンスだ。敵軍を一挙に壊滅させ、我がドイツに再び安寧を!
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