第二章 総統が死んだ日
Ⅱ-Ⅰ 反発
危険分子
ある晴れた休日、ドイツ領内ダンツィヒ中心街のメインストリートの路肩にこの日は歩行者天国になっているため、普通であれば自動車での進入は禁止となっているが、一台のワーゲンが停車した。
停車したワーゲンはごくごく普通の大衆向け仕様だが窓には珍しくスモークが貼られている。多少の異質感はあったものの、路肩駐車が絶えないこの通りでは歩行者天国で自動車に制限がかけられているにもかかわらず、途中まで自動車で進入し路肩に自動車を止めて行動をする人が多くいたために周りの人間からは「ああまたか」程度の認識をされている。
運転席と助手席のドアが開けられ、中から銃を持った男数人が飛び出す。そしてその直後にかちゃりという金属音と「どん」と何かが破裂したような音がする。ダイナマイトで岩を砕くときのような、瞬間的ながら激しく重い響きが聞こえた。それは幾度ともなく響き続け、複数人の足や胸を撃ち抜く。
一番最後に車から出てきた男は手にサブマシンガンを持ち、逃げ惑う人々に向けて上に上がるボルトの取っ手を下げセーフティを解除し引き金を引いた。タララララ……という小口径弾独特の軽い発砲音が街頭に響き、それは次第に悲鳴へと変わる。そしてとどめと言わんばかりに手榴弾のピンを抜き、群衆の中へと力強く投げ込んだ。
野球の経験者なのだろうか、彼の投げた手榴弾は奇麗な弧線を描きながら走り逃げる群衆の行側に着弾し炸裂した。爆塵の先では破甲でひどい裂傷を負う人達や不幸にも爆心近くにいて爆風で腕を飛ばされ絶叫すしのたうち回る男がいる。
ここまでわずか数分。ほんの少し前には平和な休日の市場であったが、今となれば建物の壁に血糊がべったりと張り付き、アスファルトで舗装された歩行者天国となった道路には小さな血の池が浮くような戦場さながらの様相を呈していた。
そして一番最初に出てきた男はまたトランクを開け、その中から軍隊で使われるような程の大きさをした梱包爆弾を取り出して周りを見渡すとある一つの建物に向かって歩き出した。
『Café』という吊るし看板がされたその建物の中へとその男が入ると、中では大きな悲鳴が上がる。彼は客や店主を拳銃で脅しながら置き土産のように爆弾を店の真ん中あたりに設置し
「
と一言残して外に出、一点に集まった仲間の元へと向かうと
「おい、見てろよ」
そう言って細い線で続いた起爆スイッチを押した。ほんの少しの違和感をなしてずれた稲光と雷鳴のようにぱっと光が上がったと思えば、直後に地軸もろとも引き裂いてしまうかのような爆発音が轟いた。カフェのガラスは爆風に押され紙切れのように宙を舞い光を乱反射させ、その後から尾を引くように黒煙と炎が噴き出した。
「……すごい威力だ。これがまだ何個もあるんだろ?」
「ああ、これなら……」
爆発を確認しにカフェの中へと入ったテロリストたちは自前の爆弾の威力に驚き、一瞬言葉を失ったがそれもつかの間、組織の技術力の凄さに感服していた。
その時
「おい! 親衛隊と警察が来たぞ!」
道を監視していた構成員の男がそう叫んだ。
「逮捕されるわけにはいかんよなぁ?」
「抵抗するしかないな。こっちはレジスタンスだろう?」
彼らがそう話す建物の外では秩序警察が「君たちにもう勝ち目はない! 今すぐ降伏しなさい!」そうメガホン越しに呼び掛けている。
「よし、行くぞ!」
リーダーであろう男がそう小さく叫ぶと、廃墟と化したカフェからテロリストが飛び出し、メガホンを持つ警察官の近くにいる銃を持つ親衛隊員に向かって発砲した。
銃撃を受けた隊員はその場で腕を抑え蹲り、その周りにいる隊員は反射的に銃を構え見える敵を手当たり次第に撃ち続ける。7.92ミリの重くもなく軽くもない爆発音とカラカラと薬莢が地面で跳ねる金属音がテロリストたちと警察、親衛隊しかいない静寂に包まれた通りに響く。
徹底的に訓練を受けた彼らの銃弾はテロリストたちの足や腕を的確に射貫くが、個人的な粗雑な訓練しか行っていないテロリストたちの弾は最初の一発が当たったきり一発たりとも当たることはない。当たったとしても装甲車のフロントや近くにあった商店の看板を貫くのがいいところで、それ以外は連射する反動に狙いすらまともに付けられずにことごとくあられもない方向へと逸れていくだけ。
死者を出しながらも執拗に抵抗を続けるテロリストたちに痺れを切らしたのか親衛隊員たちは各自散開し、逮捕ないし即時射殺すべく駆け出した。十秒も経たないうちに銃撃戦が再開し、そして数分も経たぬうちに
「目標a、射殺しました」
「目標b、拘束しました」
「目標c、射殺しました」
「目標d、射殺しました」
……と、続々報告が無線に流れる。結果この制圧活動では親衛隊員二人が軽いけがを負い、テロリストは四人中三人が死亡、一人が逮捕拘束された。
そして同日、被害状況を確認したナチス党政府はダンツィヒに戒厳令を敷き、現場となったポンメルンの大聖堂周辺を封鎖し事後処理が行われた。
逮捕されたテロリストは小規模レジスタンスの一員であり、尋問によって潜伏先を確定的にした秩序警察と親衛隊は家宅捜索を決行。潜伏先にはソビエトやフィンランドを通じて密輸された拳銃や手製の手榴弾などが押収され、コピー品が完成する寸前の
この時に逮捕されたレジスタンスは即決裁判において死刑を言い渡され、その場で銃殺された。
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