　第一次世界大戦がさらに過激さを増していた1917年、旧ロシア帝国の首都ペトログラードでは工場の労働者や女性が『ペトログラード・ソビエト』を結成し、そして臨時政府までもを設立した。政府より暴動の鎮圧のために派遣された兵士が離反しソビエトの味方に付き、西はウクライナ、東はシベリアまでおよそ200以上の政府組織がロシアからの独立を表明し、ロシア帝国の『白ロシア』やバルト地方、カフカ―ス地方の諸勢力が結託しソビエト政権側、『赤軍』との内戦状態へと突入した。

　連合国による赤軍討伐のための干渉戦争も意味をなさず、内戦が終結した後はウラジーミル・レーニン率いるロシア語で『多数派』を意味するボリシェヴィキが政権を掌握し、市場経済の撤廃や企業の国有化を推し進め、完全なる社会主義国家を目指した国づくりがはじめられた。

　建国の父レーニンの亡き後、レーニンからの反対を押し切って側近であったスターリンが書記長に就任した。彼はもともとキリスト系神学校の生徒であったが無神論を提唱し、キリスト教やイスラム教などの宗教の信仰を禁止し、スターリンに対する個人崇拝を強め、ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国内務人民委員部附属国家政治局という公安組織を設立し、スターリン批判をしたものはたとえ一般人であろうとも女であろうとも『人民の敵』『反革命分子』とみなし簡易的な裁判を通して死刑ないしシベリアでの労役に就かされることとなり、軍部の将校であれば粛清リストの中に名前が刻まれた瞬間逮捕するというような人間不信的な面も持ち合わせていたものの、世界恐慌が発生した当時には五カ年計画という集団生産プログラムを実行していたために大不況のさなかにおいても経済が衰退していく資本主義国家に対して経済が目覚ましく発展した。

　1939年にはレニングラード湾にあるフィンランド領の島嶼を割譲する対価としてフィンランドとの係争地をすべて譲渡するなどと言ったいくつかの要求を提示したがフィンランド側はそれを受け入れず、1939年11月26日午後、カレリア地峡付近のソ連領マイニラ村でソ連軍将兵13名が死傷する砲撃事件が発生したとソ連側から発表し、同月30日宣戦布告なしにフィンランド国境全域を侵攻した。

　しかしフィンランド軍恩実力を見誤っていたソ連軍はシモ・ヘイヘ（白い死神）やフィンランドのスキー兵相手に苦戦することとなり、おおよそ二十万人以上の戦死者を出した。結果モスクワ条約でカレリア地方などの割譲には成功したものの国際社会からは大きな非難を浴びた。

　1941年にはモロトフ・リッベントロップ協定を一方的にドイツが破棄し、ソ連領内に侵攻を開始した。奇襲によりスターリングラードまでズルズルと撤退することを余儀なくされた赤軍は戦車や兵員の数ではドイツ軍を上回っていたものの、低オクタン価の粗悪な燃料によってエンジンの焼きつきが発生することや、無謀な突撃による不必要な損失がつもりにつもり、結果モスクワ攻防戦まで発展。モスクワ防衛軍の奮戦も虚しく、モスクワは陥落、ソ連の国内世論は降伏に傾いていった。しかしスターリンは徹底抗戦を表明し、首都をエカテリンブルクに移転したが、シベリアの少数民族たちが独立を宣言し、ロシアは東西に分断される形になった。そして分断された東ロシアはアメリカ軍によって宣戦布告なしに占領され、親アメリカ政権であるロシア共和国が建国された。

　領土の大半を対外勢力によって食い荒らされたソビエト連邦は交戦を継続するのは不可能だと判断し、降伏。同年に締結されたモスクワ講和条約においてモスクワ、ゴーリキーを含めたノヴゴロド地方以西カフカース地方を割譲し、バルト三国には『オストラント国家弁務官区』、ウクライナには『ウクライナ国家弁務官区』、コーカサス地方には『カフカース国家弁務官区』、モスクワ周辺には『モスコヴィーン国家弁務官区』が設立され、ナチスの構想する東方生存圏構想は完遂された。残されたソ連軍将校や共産党員は全て残ったソ連領に国外追放された。

　国家機能、産業、軍事、農業の主要部を奪われたソ連に残ったものはわずかな小都市と寒さに枯れた大地と飢えた人民だけだった。

――しかし、この苦境の裏でドイツ第三帝国に対する反抗計画が立案されていた。