第一章 千週間帝国

Ⅰ-Ⅰ千週間帝国

Thousand Weeks Reich

 1952年、第二次世界大戦が終結してから7年、そこにはとある戦後世界が広がっていた。

 現実世界との相違点、それはドイツ第三帝国が第二次世界大戦に勝利したことである。

 欧州大陸をすべる者、それは『総統』と呼ばれる男、アドルフ・ヒトラー。彼の率いる国家社会主義ドイツ労働者党による独裁政権はフランス、イギリス、ソビエトという名だたる大国と小国を撃破し、その手中に収めた。

 そして、彼らの大きな敵は第二次世界大戦のもう一つの戦勝国、アメリカ合衆国である。この世界はナチズムにきっかり染まってしまった欧州帝国と自由主義大国であるアメリカによって二極化されていた。

 そう、まるで戦後にソビエトとアメリカが起こした冷戦のような、いや、まさにそのもののような構図がこの世界では構築されていた。

 しかし幾度ともない戦い勝利を重ね、迫害を続けていた第三帝国は反乱を恐れるあまりに取った苛烈な統治政策によってさらに反乱が頻発化。鎮圧にあたる親衛隊や国防軍への被害も増すばかりであった。

 戦後の不景気によりインフレーションが深刻化。経済は完全に停滞し、さらにはナチス党幹部や国防軍、親衛隊による権力争いが発生、激化の一途をたどり、暗殺などの事件が発生するようになった。現在はヒトラー総統閣下による統率によってかろうじて維持できてはるものの、ちょいとつけば一瞬で崩れ去り、四分五裂しそうな波打ちぎわの砂城のような状態に陥っていた。

 そしてその傷口にあら塩を塗り込むようにアメリカ、イギリス、カナダを筆頭に世界各地の自由主義国家が加盟する『トロント条約機構』が内部に侵食をはじめ、アメリカのCIAやイギリスのSIS、日本の公安などの諜報機関による反乱に対する隠密な武器支援やテロ工作などの特殊工作が頻発し、第三帝国内はさらなる混乱状態に陥った。

 アドルフ・ヒトラーが政権を掌握し一党独裁の道に走ってから約1000週間が経過した1952年、かの凄惨な大戦争を勝ち残り、痛みを理解しておきながらも今一度新たな戦争の火蓋が切って落とされようとしている。


 "地獄の帝国"ナチス・ドイツは生存を懸けて猛攻撃を開始する。

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