第5話 婚活パーティ

 はてさてこうして婚活パーティの当日となりました。


 私は新品のワンピースの着方に苦心しながらなんとかそれを攻略し、決戦現場となるホテルのラウンジへと向かいます。


 パペットは今日はお留守番です。私はたった一人で戦場に向かわねばなりません。


 水無瀬? あれは戦力に数えていないので。ただただ、私の邪魔をしなければいいという認識でしかないので。


 そもそもアイツはちゃんとここにたどり着けたのでしょうか。


 ラウンジの入り口で招待状を見せ、パーティ会場へと入っていきます。


 受付のお兄さんの胡乱な目つきが気になりましたが、言いたいことを呑み込んだのはさすがプロというやつでしょう。まあ雇われバイトくんでしょうが。


 パーティ会場にはすでに若い男女が集まっていました。


 正確には若いのは女性で、男性は少しばかりお年を召した――ありていに言ってしまえばおじさんが多い印象です。


 こういうのは高収入の男性をなんとかして射止めたいという野心を燃やした女性がやってくるものらしいので、本来の趣旨としては正しいのでしょう。


 ですがなんというか、彼ら、あまり爽やかな雰囲気ではありません。


 追い詰められて必死な気持ちを押し隠している男性がほとんどです。


 きっと何かの事情で、誰とでもいいから結婚しなければいけない事情を持った方々なのでしょう。大変ですね。知らんけど。


 そんな状態ですから若い男性はそれなりに目立っていました。パーティも始まっていないのに唾を付けられている方もいます。


 ほら、すぐそこにも女性に絡まれている高身長の男が――


「えっとねえ、今日はお仕事で来てるの」


 二度見しました。


 三人の女性に囲まれている男の顔にはよーく見覚えがありました。


 女性たちの質問に、水無瀬はふにゃふにゃ笑いながら答えています。


 えっ、本当に会場にたどり着けたんですか!?


 というか今仕事で来ているって言いませんでした!?


「あのばか……」


 小さく口から声が漏れます。


 ですが近づくわけにはいきません。


 ここでアイツを構ってしまっては、せっかくの潜入が台無しです。


 私は大きく息を吸って、叱りつけたい衝動を我慢します。


 耐えるのです、小鹿ひばな。いつもの癖で突っ込むんじゃありません。今日はあのバカを無視していい日なのですから。


 私はそっと水無瀬の視界から逃れると、壁際に寄りました。


 そうこうしているうちにパーティの司会の方が壇上に上がりました。


「こんにちは。本日は新たな出会いを求めつつ、どうぞ楽しんでいってくださいね」


 要約するとこんな感じでした。


 続いて本日の予定が説明されます。私は事前にもらっていたチラシを思い出しました。


 まずは全員でテーブルをめぐって自己紹介をし合うらしいです。その次に気になった方とマッチングして、他の場所でお話をするという流れだそうな。


 自己紹介タイムは二つに分けられていて、途中で休憩が挟まります。


 つまり私は二度も自己紹介地獄を味わわねばならないということで。


「……絶対に一回目で対象に接触する絶対にすぐに仕事を終わらせて一回目で帰る」


 ぶつぶつと言いながら私はうつむきます。


 ああいやだ。せめてパペットがあればこれぐらい楽勝なのですが。


 嘘ですパペットがあってもやりたくないですこんなの。


 しかしこうして俯いていても仕方ありません。


 私は顔を上げ、自己紹介を順番にしていく列に並びながら、さりげなく対象を探しました。


 対象は男性。やせ型で背は高め。髪はきっちりと整っているとは言い難く短い。


 不潔ではないが清潔でもない。あえていうなら平凡。


 ――いました。あいつですね。


 こんな男性がよろしくない組織の末端だなんて、一体誰が思うでしょうか。


 いえ、子供の成りでこうして運び屋のまねごとをしている私も私なのですが。


 そっと列を抜けて私は対象のほうへと歩いていこうとしました。


 私の任務はこの封筒を届けて、彼の反応を見ること。それ以外には何もするつもりもありません。


 さあ、さっさと終わらせて帰りましょう。そろそろワンピースも息苦しいです。


 しかしそんな私の手を、腰かけていた一人の男性がつかみました。


「ほげえ?!」


 まるでお化け屋敷にお化けに絡まれたときのような悲鳴を上げてしまい、私は注目を浴びました。


 違うんです、悪いのは私ではなく私の手首を捕まえたこの男なんです!


 私はそろそろと男の顔を見ました。


 さわやか系イケメンの彼は、私を見て目を見開いていました。


「……ご主人様?」

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