第399話 20章:私達をスキーに連れてって(10)

「そろそろ凍えたころかと思ったのだが……こんな結界を張れる人間がいたのかえ」


 やってきたのは白い着物を着た若く美しい女性だった。

 雪女。

 その単語が頭をよぎる。


「まあよい。ふぅっ――」


 雪女は静かに息を吐いた。

 強烈な冷気がオレ達を襲う。

 オレはそれを剣のひと薙ぎで散らした。


「むっ……貴様、ただの人間ではないな?」

「どうだろうな」


 さっさと倒して戻ろう。

 そろそろ由依達も気をもんでいる頃だろう。


「カズ、私にやらせて」


 朱の剣を携え、システィーナが前に出る。


 このヴァリアント、見たところダークヴァルキリーや低鬼に比べれば強い。

 だがスサノオクラスに並ぶほどではない。

 せいぜい、最初の頃に戦ったトールくらいだろうか。


「わかった。少しでも危なくなったら、助けに入るからな」

「まかせて!」


 システィーナは重いスキーブーツを脱ぎ、雪女に向かって駆ける。

 オレはこっそり彼女の足に保温魔法をかけてやる。


「愚かな」


 対する雪女が腕を軽く振ると、氷の薙刀が出現した。

 横薙ぎに襲い来る刃に構わず、スティーナは突っ込む。


 刃の内側へと一気に距離をつめたが、薙刀の柄がシスティーナの脇腹を襲う。

 本来ならさほど威力の出る位置関係ではない。

 だが相手はヴァリアント。

 小突かれただけで骨がばらばらなんてことも十分ありえる。


 オレは意識を目に集中する。

 1秒が数分にも引き伸ばされた感覚。


 二人の攻防がほぼ止まって見える。


 少しでもシスティーナがケガをする危険があれば、瞬時に割って入るためだ。


 システィーナはあいた左手で薙刀の柄を掴みに行く。

 彼女の細腕で止められるほど、雪女の一撃は軽くない。

 抵抗など何もないかのように振られる薙刀。


 しかしシスティーナは、その勢いを利用し、体を宙に舞わせた。

 そのまま右手の剣を振るうが、雪女の髪を一房落としたのみ。


 くるりと宙返りしたシスティーナは、雪に尻もちをつく。


「あいたた……いけそうな気がしたんだけどね」


 着地こそ失敗したが、普通の運動能力じゃない。

 プロボクサーであれば薙刀の速度に反応はできるだろう。

 しかし、その力を利用して飛び、さらに剣を振るなど不可能だ。


 その圧倒的な能力と、着地の失敗がどうにもアンバランスだが。


「でもちょっとわかってきたかも」


 笑みを浮かべたシスティーナの瞳が一瞬、朱く輝いた。

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