第398話 20章:私達をスキーに連れてって(9)

「かつてのシスティーナはたしかに強かった。だけど……」

「わかってル。今の私は生きるだけで精一杯……ダッタ」

「だった?」

「感じるの、カズを、ココに……」


 彼女はそっと両手を自分の胸にそえた。

 たしかに今、彼女の心臓はオレの魔力で動いている。

 だがそれを感じとるには、魔力を感知する訓練が必要なはずだ。


「最近、体の調子がよくなって、強く感じるようになっタの」


 システィーナが祈るように両手を胸の前で合わせると、その手が輝き出した。

 ゆっくり手を離していくと、掌から朱に輝く細身の剣が現れた。

 バチカンで彼女が無意識に作り出した血の剣に似ている。

 おそらく空気中の水分と魔力、そして少量の血で生成した剣だ。


「それ、いつからできるようになったんだ?」

「昨日かナ」

「最近だな」

「夢に出てきたのを真似してみたらできタの」


 簡単な技には見えないが、体に染み付いていたということか。


 彼女の体は『核』に適応するため、何体ものヴァリアントが混ぜられている。

 それだけに、普通の人間より、魔力的にも物理的にも強靭な肉体だ。

 今は核こそないが、体を維持するためにオレが定期的に魔力を注いでいる。

 体が安定してきたことで、魔力を体の維持以外にも回せるようになったのか。


「だからね、私も一緒に戦わせテ」

「しかし……」


 システィーナが戦わずに済むならそれが一番。

 そう考えてしまうのは、オレのエゴだろうか?


「まだ迷うなラ……」


 普段穏やかなシスティーナから殺気が溢れた。

 オレを絶対に殺すという強い殺気だ。

 普通の生活をしていて身につくものではない。


 座ったまま突き出されたシスティーナの剣がオレの首を狙う。


 ――キンッ。


 そのまま刺しはしないだろうとは思った。

 しかしオレの体は、無意識に黒刃の剣を取り出し、朱色の剣をいなしていた。


 鋭い一撃だ。

 バチカンで見た彼女の剣技にも劣らない。

 オレの体を動かすほどに。


「合格?」


 システィーナは殺気を霧散させ、朗らかな笑顔でオレを見つめる。


「わかった、合格だよ」


 オレは諦めて肩をすくめてみせる。


「やっター!」


 システィーナは小さく手を叩く。

 手袋がぽむぽむとかわいい音をたてた。


 これだけの力があるなら勝手に動きかねない。

 ならばいっそ一緒に戦ったほうが安全だ。

 彼女の体に異常を認めたら、力ずくで止めればいい。


「しかしすごい殺気だったな」

「殺してヤルーって気持ちになってみたの。迫力あったでしょ?」

「お、おう……」


 それだけであんなプレッシャーを出せるものか?

 天才役者か何かかな?

 

「さて、随分遅い登場だな」


 オレがかまくらの外に目をやると、つられてシスティーナも「なになに?」と顔を向けた。

 かまくらを出たオレに、システィーナも続く。


 吹雪の向こうから強い魔力がやってくる。

 それはやがて、オレが防寒のために展開した結界をすり抜けてきた。


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