第400話 20章:私達をスキーに連れてって(11)

 再び突進するシスティーナ。

 薙刀を突き出す。


 システィーナはそれを前方宙返りで避ける。

 いや、避けただけではない。

 システィーナが雪女の背後に着地した瞬間、雪女の体と薙刀が縦に真っ二つになった。

 刃を2枚におろすなど、達人でも不可能に近い。


「わあ……やれちゃっタ……」


 彼女自身、驚いているようだ。

 剣を掲げてみたり、ぴょんぴょんと跳ねてみたりしている。


「よく戦ったが……つめが甘いな」


 オレはシスティーナを抱え、大きく下がる。


「え?」


 視線の先には真っ二つになって倒れた雪女の体。

 紫の煙になって消えるはずが、残ったままだ。

 その断面が蠢き、そこから伸びた触手が編まれていく。

 

 やがて触手は人の形となっていく。

 それはイエティなどと呼ばれる雪男だった。

 周囲の木々よりも高く、握った拳はちょっとした物置くらいのサイズはある。


「この姿を見せるのは何十年ぶりか。美しいあの革を破らせたこと万死に値する。山をも砕くこの拳、受けるがいい!」


 雪女……いや、雪男は魔力のたっぷりこもった拳を打ち下ろしてきた。

 たしかにこの一発で、火口が一つ増えるくらいの威力はありそうだ。


 だがそんなものが通用すると考えたのなら甘いと言わざるをえない。


 オレは雪男の巨大な拳を指先で軽く受け止める。

 雪崩がおきないよう、その全ての衝撃を吸収してだ。


「な――」


 雪男が驚くまもなく、オレの剣はその巨体を粉々にしていた。

 今度こそ、ヴァリアントの体は紫の煙となって吹雪に消える。


「すご……あ……れ……?」


 驚き目を丸くするシスティーナの体がぐらりと傾いた。

 オレは急いで駆け寄り、支える。


「なんだか、力が入らなくなっちゃった。


 力なく微笑むシスティーナの魔力はかなり小さくなっていた。

 オレは彼女の胸に手を当て、魔力を注ぐ。


「あふ……温かイ……」


 システィーナは気持ち良さそうに目を細める。

 戦い方は体が覚えていても、枯渇しがちな魔力はどうにもならないか。

 気をつけてやらないとな。


「もっとぉ……」


 やがてシスティーナの目がとろんととろけ始める。

 同時に吹雪が収まっていく。

 雪女(男?)が死んだことで結界が解かれたのだ。


「カズぅ……」


 システィーナがオレの首に手を回し、キスをしてきた。

 唇からオレの魔力を吸い取っていく。

 しかたない、このまま魔力を注入しよう。


「ん……んん……」


 システィーナの体が快楽に跳ねる。


「カズ! いた! 無事ね!? んん!?」


 そこへ現れたのは由依、双葉、美海の3人だ。


「よかったお兄ちゃ――何してるの?」

「遭難プレイとはまた定番うらやましい……」


 オレを探すためだろう。

 美海は神器を発動し、バニー姿だ。

 雪山にバニーとはまた乙である。


 などと言っている場合ではない。


「心配させといて、いちゃついてたってことぉ!?」


 由依の怒りが爆発寸前である。



 由依達にヴァリアントを倒したことを説明し、なんとか事なきを得た。

 ヴァリアントと戦うよりよっぽど変な汗をかくんだよなあ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る