第395話 20章:私達をスキーに連れてって(6)
ライトに照らされて輝くゲレンデを眼下に、3人乗りのリフトが空を行く。
オレを真ん中に、左はシスティーナ、右は由依だ。
両手に花である。
日が落ちて気温は急激に下がっていた。
空気中の水分が凍って、キラキラ輝いている。
スキー場が最も混雑していたころは、ゴンドラが1時間待ちなんてこともあったらしいが、90年代後半ともなると流行はすぎていた。
ナイターなど、ほぼ並ばずにリフトに乗れる。
景色も良いし、寒いことを除けば快適だ。
「キレイね……」
眩しそうに目を細めたシスティーナが体をぶるっと震わせた。
「寒いか?」
「ううん、ダイジョウブ」
システィーナは首を横に振り、ぎゅっとオレに腕を絡ませてきた。
「わ、私も大丈夫だからね」
反対側から由依が同じように腕をからませてくる。
大丈夫とはいったい?
リフトを降りると、例のナンパ3人組が上から降りてきた。
よく会うなあ。
つけられてるんじゃないかと思うほどだ。
一応警戒はしていたが、そんなことないんだけどな。
「ナイターで特訓か?」「ヘタクソががんばってんなあ」「女の子だけだったら教えてやろうか?」
相変わらずロクでもない連中だ。
こんな調子じゃ、ナンパになんて成功しないだろう。
「言われっぱなしも気に入らないわね」
由依がにやりと笑った。
「そうだな」
「そうだよネ」
オレとシスティーナもそれに続く。
昼に比べてナイターはゲレンデにも人は多くない。
オレ達は顔を見合わせると、スピード全開で斜面を滑り出した。
3人とも、一流スキーヤーと呼んで差し支えない腕前だ。
それに加え、オレを先頭に、一糸乱れぬ揃った動き。
日中、上手い人の動きを観察することで、一気に上達したのだ。
由依はともかく、システィーナまで急激に上達したのには驚いた。
才能というやつだろうか。
オレ達はナンパ組を追い越した。
それも直滑降ではなく、華麗にシュプールを描きながらだ。
周囲に人がいないことを確認してから、よっと!
オレはゲレンデのコブを使ってジャンプ。
体をひねりながら後方宙返りを決めた。
やがてオレ達は、リフト乗り場へと戻ってくる。
「ちょっとカズ、あんなジャンプどこで覚えてきたの?」
「やってみたらできた」
「ぶっつけ本番!? 危ないよ!?」
「頭から落ちてもケガなんてしないしな」
「いやまあ、そうかもだけど……。まあ、そうよね。カズにその手の心配は不要だったわ」
由依を心配させちゃったのは悪かったな。
オレ達の横をバツが悪そうな顔をしたナンパ組が通り過ぎる。
実にいい気分だが、こちらから煽ったりなんてことはもちろんしない。
ただひそかに顔を見合わせて微笑むだけだ。
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