第392話 20章:私達をスキーに連れてって(3)

「あれ? このスキーって、カカトが上がらないのね」


 まずは平地でスキー板の扱い方から……と思ったら、最初に戸惑いを見せたのは由依だった。


「スキー板ってそういうものじゃないのか? カカトが浮いたりしたら、滑りにくいと思うけど」


 平地を走るクロスカントリーなんかだと、たしかにカカトは浮いていた気がするけど。


「私が以前使ったのは浮いたのよね。軍隊なんかはそうするって」

「やっぱりレジャーじゃなかったかあ」

「大丈夫! 基本は同じはずたから!」


 そんなこんなで始まった由依先生のスキー授業。

 とりあえず少し足で山を登るところまでは進んだものの……なんというか、素人には向かない授業だった。


「こんなかんじで、こう!」

「こうですか?」

「ちがうちがう、こう!」


 教え方が感覚的なのである。

 さすがの双葉も、困惑気味だ。


「私の時は雪山に放り出されて、体で覚えろって感じだったから、どう教えたらいいのかわからないのよね……」


 とは由依の言い分である。


「ぎゃはは! 下手くそだな!」「オレ達にならっときゃいいのによー」


 その横を、先程のナンパ組が通り過ぎて行った。


「むぅ……やな感じね」


 由依達は一様に不快感を顕にする。


 オレもちょっと悔しいぞ。

 滑り方の予習くらいしてくるべきだったかもな。

 いや、今からでも遅くはないか……。

 ゲレンデには上手い人もたくさんいる。

 参考にさせてもらうとしよう。


 オレはともかく、由依達がバカにされたままってのは気に入らないからな。


「物語なんかだと、ああいう人達が遭難したりするんダヨね」


 しれっと怖いことを言うシスティーナである。


「最近、このあたりで行方不明者が出たって話です?」


 美海がシスティーナに聞いた。


「そうそう。さっきそんなことを言っている人達かいましたね。捜索がすぐに打ち切られたとか」


 妙だな。

 吹雪いているならともかく、そう簡単に捜索が打ち切られるなんてことがあるだろうか?


 ヴァリアント関連じゃなければいいが……。

 なんて思う時点で、関連あるんだろうなあ。


「はいみんな、それより練習よ! スキーは滑れるようにならないと楽しくないからね!」


 めっちゃ張り切る由依先生である。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る