第391話 20章:私達をスキーに連れてって(2)
◇ ◆ ◇
そんなこんなでやってきました、北海道にある某スキー場。
てっきり新幹線で長野か新潟あたりかと思いきや、飛行機で一気に北海道である。
お金……というか、プライベートジェットを白鳥家が出してくれた。
借りは作りたくなかったが、白鳥父いわく「普段お世話になっているお礼」とのことだ。
オレへの機嫌とりな気もするが、そう言うのであればありがたくうけとっておこう。
メンバーはオレ、由依、システィーナ、双葉、美海の5人だ。
現地に郵送されていた道具一式を受け取ったオレ達は、スキーウェアに着替え、ゲレンデに降り立った。
スキーウェアは女子の魅力を5割増にするというが本当だ。
「さむーい! というか顔が『痛い』に近いよねこれ」
そう言いながらもピンと伸びた背筋で軽々とスキー板を担ぐのは由依だ。
真っ赤な上着に、下半身にフィットした黒いパンツのセパレート、そして虹色に輝くグラサンがキマっている。
他のみんなもそうだが、ウェアのデザインが無駄に派手でちょっと古臭いのはしょうがない。
この頃としては最新デザインなのだ。
「この雪、さらさらだよお兄ちゃん!」
ひまわりをあしらった、ちょっとかわいいウェアーは双葉だ。
さすが中学生、元気いっぱいである。
いや、オレ達も高校生の若者なんだが。
「スキーウェアーって、体がすっぽりかくれてるのがエ――かわいいですよね」
垂れ流れそうな妄想を無理やりひっこめたのは、カラフルな蛍光カラーに身を包んだ美海だ。
本人は地味なのものを選びたがったが、由依達がたまにはということで焚き付けたのだ。
かなりバブリーなデザインである。
いかに90年代後半とはいえ、ここまで派手なのはベテランスキーヤーくらいだ。
「これがスキー場……一面真っ白でキレイ……」
そう言って山頂を眺めるシスティーナの銀髪が、雪に反射した光でキラキラ輝く。
その透き通った肌は、彼女が身につける真っ白のウェアーよりも白いと思えるほどだ。
「みんなかわいいねえ、どこから来たのー?」
そこにやってきたのは、お約束のナンパ組である。
大学生風の男性三人組だ。
そりゃあこんだけ美少女が集まっていれば、ダメもとで声をかけてくる連中が出るのもしょうがない。
由依達も慣れてきたのが、女子達は互いに顔を見合わせて、一斉にオレに腕を絡ませてきた。
といっても、オレの腕は二本しかないので、出遅れた美海はウェアーの裾を掴む形だ。
システィーナはそんな彼女達をのほほんと眺めている。
「連れがいますので」
北海道の冬すら逃げ出すような、由依の冷たい声に、男達はたじろいだ。
「こわ……」「ハーレムかよ」「ちっ……」
男達は主にオレをにらみながら、悪態をつきつつ去って行く。
撃退できたとはいえ、せっかくの楽しい空気が台無しになってしまった。
「仲良しさんたちだネエ」
ぽややんとそう言ったのはシスティーナだ。
それは皮肉ではなく、素直な羨望だった。
バチカンの戦士だった頃のシスティーナは、友達と遊ぶ余裕などなかった。
戦士だった頃の記憶がないのと同時に、友達との思い出もないのだ。
「オレ達も楽しもう」
「そうだネ」
システィーナの浮かべた朗らかな笑顔に、みんなの空気もやわらぐ。
「『楽しむ』って……ドキドキ……」
いつも通り何やら妄想している美海はおいとくとして。
「この中にスキー経験者は?」
「雪山行軍の訓練を受けたことはあるけど、レジャーは初めてかな」
由依の口から、女子高生とは思えない単語が飛び出した。
白鳥家だし、由依の生い立ちを考えるとそういうこともあるだろう。
あるかなあ……?
他に経験者はなし。これはオレもだ。
異世界で冬の峠越えをしたこともあったが、あの時は魔法で飛んだからなあ。
「それじゃあ、基礎は由依先生に習うとしますかね」
「先生!? ま、まかせて!」
ちょっと照れがちに胸を叩く由依だった。
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