第390話 20章:私達をスキーに連れてって(1)
■ 20章 私達をスキーに連れてって ■
「どう? きれいにできたでショ?」
メイド服を着たシスティーナが、掃除機片手にオレの部屋で得意げにしている。
バチカンの一件から弱っていた彼女だが、こうして白鳥家のメイドをできるくらいには回復していた。
心臓もオレの魔力に慣れてきたようで、補給は3日に1度で問題ない。
用心は必要だが、閉じ込めておくのも彼女の人生によくないだろう。
そろそろどこかに連れて行ってあげたいところだ。
観光したいところもあるだろうしな。
「家事はお手の物だな」
「デショ!」
ベッドですまなさそうにしていた彼女が、こうして笑顔になれただけでも大きな進歩だ。
「そろそろ修行始めちゃウ? お姉さん強くなるヨ」
ヴァリアントに関する記憶をなくしている彼女だが、簡単な説明はしてある。
なんせオレや由依と深く関わる上に、一人で見知らぬ土地に来ているのだ。
下手に探られて危険な目に合うより、ある程度正直に伝えておいた方が良いと判断したからだ。
なにより、オレからの魔力供給を受けてもらうのに、何も説明しないというわけにはいかなかった。
「修行はしないって。ヴァリアントと戦うには普通の人間じゃ難しいんだ」
「ええ? 私も役に立ちタイよ」
「逃げられるくらには訓練するからさ。まずはそれでいいだろ?」
「んー……わかった、いいよ。きっとすぐにすごい才能が開花して、一緒に戦えるようになるカラ!」
記憶はないけど、元バチカン最強の戦士だからなあ。
可能性がないとは言わないが、できればそんな才能とは無縁のまま穏やかに過ごさせてやりたい。
あれだけ悲惨な思いをしたんだ。
贅沢などではないだろう。
「訓練もいいが、遊びに行ったりしたくないか? せっかく日本に来たんだし、観光って手もあるぞ」
「んー……それじゃあネ……スキーに行きたいナ」
「スキーって、雪山で板に乗るあれか?」
「そう! テレビCMで見て、行ってみたかっタの」
この頃、ブームは終わりを迎えていたとはいえ、まだまだウィンタースポーツとしてスキーはメジャーだった。
スノーボードが人口が増えたこともあり、未来に比べてメディアでの露出も多かった。
この冬は世界的に大きなスポーツ大会が長野で開かれたこともあって、ちょっとした盛り上がりを見せていたのだ。
しかしスキーかあ。
腕前を見せてやると張り切ったバブル世代の上司に、無理やり付き合わされた思い出しかないんだよな……。
その上司は足を骨折してたけども。
当時は部下一同、「ざまああぁっ!」と思ったものだ。
「あまり寒いところに連れて行くのはまだ体が心配だが……温泉もあるだろうし、体が辛かったら湯治だとでも思えばいいか」
スキー場は当然山にあるわけで、温泉宿とセットになっていることも珍しくない。
「温泉! いいネ!」
お気にめしたならよかった。
「私も行きたい!」
そこへ扉をばーんと開いて乱入してきたのは由依だ。
「盗み聞きは感心しないぞ」
「ドアに耳を当てていたら、たまたま聞こえたのよ」
たまたまとは?
「もちろん行くならみんなで行くさ」
「やった! じゃあみんなの道具をそろえなきゃね」
「レンタルでいいだろ」
そう何度も使うとは思えない。
「こういう時こそしっかりお金を使わなきゃ。それがお金持ちの義務ってものよ。それに、使わなくなったら寄付でもすればいいんだし」
この辺の発想はさすが白鳥家だ。
オレにはない考え方である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます