第389話 19章:かみまい!(12)

「なんだ今の技は! お前ごときに私の首を落とせるはずがない!」


 オレが護身用に持たせておいた呪符だからな。

 使い捨てだが、ねらった場所の空間を瞬間的に断絶することができる。

 それこそ神域絶界級の結界以外はなんでも斬れる。


 ウカの手が生首に伸びるが、双葉はその首を数メートル先に蹴り飛ばした。


「あんたなんかにいいい! 一番やられたくなかったあんたにいいい!」


 口では双葉など関係ないと言いつつも、何かの執着はあったのだろう。

 それがどういった感情なのか、正確に推し量ることは困難だが。


「あたしの妹ならウダウダ言わないの。妹だなんて思ったことはないけどね」


 双葉はばたばたと暴れるウカの体と、わめき続ける生首を交互に見た。

 無表情ではあるが、無理矢理感情を押し殺しているのは明らかだった。


「ちくしょうがあああ!」


 自分の足首を引きちぎったウカは、瞬時に再生。

 首を拾って胴体と繋げると、双葉に全力で突進した。

 山をも砕くかの拳は、やはり双葉に届くことはない。

 ウカの籠手と拳、さらに肘までが自身の力により粉々に吹き飛んだ。


「バカな……この一撃すら通らないだと……?」

「神域絶界内に通常空間を作っているの。あたしは戦いが苦手だからこれくらいできなきゃお兄ちゃんについていけないから」


 神域絶界はもとの世界と絶界内の境界が全てを遮断する。

 ならば、絶界内の一部だけを通常空間とすることで、絶界内に干渉できない区域ができる。

 効果としては、完全なバリアみたいなものだ。

 まだ複雑な形状や複数箇所の展開はできないが、オレもマネのできない強力な技であることに違いはない。

 ウカのような直接攻撃特化型には無類の強さを発揮する。


「そんな高等技術を人間ごときが! いや人間には不可能――ぐがっ!」


 こんどはウカの首が空中に固定された。


「お兄ちゃん、苦しませずにお願い」

「もういいのか?」

「うん」


 双葉がどういう気持ちでこの戦いをしたのか、そして何を納得したのか、または納得できなかったのかはわからない。

 だがこれで、立ち止まることなく人生を歩めるというのなら、それにこしたことはない。


「や、やめ……私はまだヒミコ様のために――」


 オレはウカの首を撥ね、そのまま体を焼き尽くした。




 神域絶界を解いた双葉が夕日に目を細めた。

 いつの間にか雪がやんでいる。

 その目元がキラリと光る。


「ヴァリアントって何なんだろうね……」


 双葉の疑問に対する答えをオレは持たない。


 ただ嫌な予感がした。

 大きな何かがおこりそうな嫌な予感が。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る