第387話 19章:かみまい!(10)

 ウカはオレ達が近づくのを道の真ん中でじっと待っている。

 いつの間にか周囲に人影はない。

 ヴァリアントの人払い効果か。


 オレ達はウカと話ができる距離まで黙って歩いた。


「何か用?」


 双葉が警戒心全開で静かに問う。


「ヴァリアントが人間の前で正体を現すのは、本来一つしか理由はない」


 その抑揚のない声音とは裏腹に、ウカの瞳には決意が見てとれた。

 彼女の言う「一つ」とは食事のことだろう。

 だが本当にそうなのだとしたら、わざわざオレ達を狙う理由はない。


 何があったか知らないが、戦いにきたのだ。


「あたしがあなたの父親を奪ったって怒ってるの?」

「何を言っているのかわからない」


 ウカに動揺は見られない。

 本当にわかっていないのか?

 それとも挑発している?

 双葉のことを「姉さん」と呼んでみせた以上、双葉の言葉を理解はしているはずだが。


「まあいいや。あたしも興味ないし」


 双葉は家電量販店の紙袋をそっと地面に置くと、コートのポケットから呪符を取り出した。

 オレが護身用に持たせたものだ。


「さすが姉妹。意見が合う」


 ウカの体から殺気が溢れる。


 双葉が神域絶界を展開するのと、ウカがつっこんで来るのは同時だった。


 オレは黒刃の剣を取り出しつつ、二人の間に入る。


 ――ガキン!


 ウカの拳とオレの剣が、固い音を立てて弾き合う。

 彼女の手には、侍が使うような籠手がつけられていた。

 オレの剣に斬られないのだから、ただの籠手なはずがない。


 ウカの振り下ろした拳が轟音を立てて地面に突き刺さる。

 半径1メートルほどのクレーターができると同時に、砂のようになったアスファルトの粒子が巻き上がった。

 普通に力で殴ったのであれば、ひび割れるか砕けるだろう。


「マンガを参考にし、身につけた私の技。これならばナンバカズ、貴様を倒せるはずだ。1撃目で物体の抵抗をなくし、2撃目で粉砕する。いかに貴様の体が強固だろうと、この技には耐えられまい!」


 破壊の極みかよ!


「アッー! とか叫びながら撃たなくていいのか?」

「何をいっているんだ?」


 このネタ流行ったのってもっと後だったか。

 いや、流行った後だからってウカが知ってるとは思えないけども。


「今の技、対象を魔力で分解しただけだろ」


 しかも、高速の2連撃ではあったものの、魔力がこもっていたのは1撃目だけ。

 1撃目で粒子になったアスファルトが、2撃目で舞い上がったのだ。


「そ、そんなことはない! これは修行によって会得した奥義なのだ!」


 本気で言っているようだ。

 となると、魔力の扱いは無意識か。

 結果を強くイメージしたせいで、魔法として発動したようだ。

 基礎も学ばずに自力で魔法を開発とは天才か?

 だが――。


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