第386話 19章:かみまい!(9)
家電量販店の初売りは、予想通り人ででごったがえしていた。
中でも人気なのは福袋だ。
いくらお得でも、何が入ってるかわからない家電を手に入れてどうしようというのかは不思議なのだが、昼には売り切れていたのですごい需要だ。
「見て見て! 5インチのテレビ! これならキャンプでもテレビが見られるよ!」
でかっ! 重っ!
これが10年後にはワンセグで見られるようになり、もっと進むとテレビより動画配信をスマホで見るようになるんだよなあ。
時代が進むのって早い!
早いといえば、携帯ゲーム機でテレビを見るって発想はさらに早すぎたけどな。
「プラズマテレビもあるよ! あ……MDかあ……いいなあ……」
双葉が手にとったのは、録音機能つきのちょっとゴツいMDプレイヤーだ。
この頃のポータブルプレイヤーは、カセット派、MD派、CD派に別れてたんだよな。
最新技術のMDに憧れた記憶はオレにもある。
未来じゃ、プレイヤー派とスマホ派って感じだが。
というか、イヤホンで音楽を聞いている若者って減ったんじゃないかなあ。
まあよく覚えてないし、電車通勤の時はまともに意識がなかったからな……。
「買ってやるよ」
「え? でも……」
「白鳥家から仕事をもらっててな。ちょっとは蓄えがあるんだ。お兄ちゃんからのお年玉だよ」
「それなら……ううん、やっぱりいらない」
「遠慮する必要なんてないぞ」
「MDよりね、こっちがいいかな」
双葉が選んだのは――
◇ ◆ ◇
冬の日の入りは早い。
寒空はすでに夕暮れだ。
人通りのまばらな川沿いの土手には、冷たい風が流れている。
「えへへ、これ使うの楽しみだなあ」
家電量販店からの帰り道、双葉はオレからのプレゼントを大事そうに抱えていた。
「重いだろ。持つぞ」
「いいの。あたしが持ちたいの」
「それならまあいいんだが、ほんとにそれでよかったのか?」
「うん! だってMDは一人でしか聞けないけど、卓上グリルならみんなで楽しめるから」
当時……というか今だが、通販番組をきっかけで流行ったんだったかな。
「そうか」
オレが頭をなでてやると、双葉は気持ち良さそうに目を細めた。
「それに、由依さんの家は高級品がたくさんあるけど、こういうのってないからね」
「たしかに、食卓で調理なんて発想はあの家にゃなさそうだな」
「でしょ? みんなで焼き鳥を焼きながら食べたりするの、きっと楽しいと思うんだよね」
「だな」
「ふふふ……そしてこれを使ってご飯を食べるたび、お兄ちゃんはあたしとの思い出が頭をよぎるのです……」
ふ、双葉さん?
そんなこと考えなくても忘れたりしないし、グリルは一緒に使うと思うんだが?
オレと双葉は川沿いの散歩をのんびり楽しんだ。
互いに血筋の話題は出さなかった。
相談したいという感じでもない。
双葉の中で一時的にせよ折り合いがついたのだとしたら、それでいい。
また迷ったり悩んだりしたらそばにいればいいだけの話だ。
「あ、雪……」
小さくて白い綿がちらちらと降ってきた。
「寒いはずだ」
「うん」
双葉がぎゅっとオレに腕をからませてきた。
しかし、双葉はその歩みをぴたりと止めた。
その理由はすぐにわかった。
道の先に少女が佇んでいる。
ウカだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます