第385話 19章:かみまい!(8)
「おい由依……」
今は自分の意志で戦っているとはいえ、もとは死ぬために戦うような使命を持っていた由依である。
彼女こそ、システィーナが戦うことに反対すると思っていたのだが。
「選べる人生があるのなら、自分の意志で決めた方がいいと思うの。私達はできるサポートをするだけ。私にもし戦わないという選択肢が最初からあったとしても、きっと神器を手にとっていたと思うもの」
「あたしもそう思う」
一番大切な幼なじみと義妹にそう言われてしまっては、オレが反対する理由はない。
「わかった。治療とリハビリが終わったら、ゆっくり訓練していこう」
「うん! よろしくネ、コーチ!」
こんな笑顔を見せられては、これ以上とやかく言うのもヤボというものだ。
「システィーナだけじゃなくて、私の修行にもちゃんとつきあってよね」
由依がぷくっと頬をふくらませた。
「それと神器だけど、こんなこともあろうかと用意させてるからもうちょっと待ってね」
準備良すぎだろ。
由依にはこうなることがわかっていたのだろうか。
似た境遇だけに、通じるものがあったのかもしれない。
「ところで、おせちと言えばきんとんよね」
急に話題を変えた由依がデザートがわりと言わんばかりに、栗きんとんを無限に胃袋に詰め込んでいる。
やたらと栗きんとんの多いおせちだと思ったが、由依の好みを把握しているメイド達の計らいなのだろう。
恒例行事のように去年と似たことをやっているバラエティ番組を垂れ流しながら、オレ達は正月のまったりした時間を楽しむ。
朝起きてから、昨日の双葉の話題に触れる者は誰もいない。
自宅にいる美海を含め、全員から「双葉ちゃんは大丈夫?」というメールが来ただけだ。
過剰に心配したそぶりを見せないのは、彼女なりの優しさだろう。
そんな気遣いが、今はとてもありがたかった。
「ねえお兄ちゃん、あたし初売りっていうのに行ってみたい」
双葉が指さしたのは、家電量販店のテレビCMだ。
元旦から営業しているらしい。
思い返してみれば、この頃が一番正月なんて関係なく店舗が営業しまくっていた時期かもしれない。
これより前だと元旦は休んでいたし、これより未来だとやはり休む店が増えたような気がする。
「混んでるぞ?」
「うーん、一回くらいは行ってみたいかなって」
双葉がどこかに行きたがるなんて珍しい。
「二人とも行っておいでよ」
そう言ったのは由依だ。
「なんだよ、一緒に行けばいいだろ」
「私も興味アリマス」
「システィーナはちょっと私を手伝ってほしいの」
「なんデス?」
「あとで説明するよ。だから今日は二人で行ってきて」
これは気を遣ってくれてるのだろう。
ありがたく甘えさせてもらうことにする。
「じゃあでかけるか」
「うん!」
義妹の笑顔ってのはいいもんだ。
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