第382話 19章:かみまい!(5)
「カズ……」
由依が心配そうにオレを見る。
「わかってる。今はそっとしておくさ。あとで話しておくよ」
「うん」
「双葉のこと、心配してくれてありがとな」
「家族だもの」
そうか、そう言ってくれるのは嬉しいな。
「双葉ちゃんが走っていったけどどうしたの?」
そこに姿を現したのは、神器を発動してバニーガール姿になった美海と、彼女の能力で一緒に姿を消していたシスティーナが現れた。
初詣の神社にバニーガール……。
「ちょっとな……。詳しいことは後で説明するから、姿を消した状態で双葉を追ってくれるか? ないとは思うが、ヴァリアントが手を出してくるかもしれない」
「わかった。でも、あとでご褒美ちょうだいね」
神器の影響で淫乱モードになっている美海は、オレに投げキスをして姿を消した。
◇ ◆ ◇
初詣から帰ってきたオレは、パジャマに着替え、双葉の部屋のドアを静かにノックした。
もう寝ているかもしれないが、それなら明日出直すことにする。
「お兄ちゃん?」
室内からはやや力ないものの、はっきりとした返事が返ってきた。
「入っていいか?」
おれの問いかけに、内側からドアが開かれた。
双葉もパジャマ姿だ。
目元が少し腫れている。
泣いていたのだろうか。
「入っていいよ」
オレと双葉は全く乱れていないベッドに並んで座った。
しばしの沈黙。
「お兄ちゃんは知ってたんだよね」
先に口を開いたのは双葉だ。
「スサノオから直接聞いてな」
「そっか……」
「怒ってるか?」
「ううん、あたしのためを思って黙っててくれたんでしょ?」
「ああ……」
「じゃあいいよ。教えてほしかった気もするし、知りたくなかった気もするから」
「そうか……」
「えへへ、自分でもよくわからないっておかしいよね」
いつもの強気な妹とは思えない、弱々しい笑みだ。
「自分のことだからこそよくわからないってこともあるさ」
「大人みたいなこと言うんだね」
「そうか?」
人生の最高年齢アラフォーだからな。
「あたし、どうすればいいかな?」
「いままで通りでいいさ」
「でもあたし、人間じゃないんでしょ?」
「ヴァリアントと人間のハーフを人間じゃないと呼ぶならそうだな」
「うん……」
「でもさ、進化論を信じるなら、人になりかけの頃って、人とそうなる前の生物のハーフなんだと思うんだ。もし、今も人が進化をし続けているとしたら、ミクロに見ればみんな進化の度合いは違う。ということは、純粋な『人間』ってなんだってことにならないか?」
このあたりは、人間とエルフや魔族とのハーフがたくさんいた異世界で、仲間たちと話したことだ。
「お兄ちゃんが賢そうな屁理屈をこねてる」
義妹にはいまいち響かなかったみたいだけとな!
「でも、ありがと……お兄ちゃんの妹でよかった…、」
「オレも双葉が妹でよかったよ」
二の腕に預けられた双葉の頭を優しくなでてやる。
「それで、さっきの結婚の話だけど」
「へ?」
暗い気持ちをまぎらわすための冗談だったんじゃ?
「家族としても、恋人としても楽しめるなんてオトクだと思わない?」
「お前、オレのこと好きだったのか?」
「んー? わかんない」
「ええ……?」
「だって、世界で一番大事な人だもの。それがどんな愛かなんてわかんないよ。ただ、一生一緒にいたいなって思うだけ。由依さんとはまだつきあってもいないんでしょ?」
「まあな」
「じゃあチャンスはあるよね」
双葉はオレの胸に顔を埋め、ぎゅっと抱きしめてきた。
オレもその小さな体を抱きしめる。
双葉が本気なのかはともかく、大切な家族であることに異存はないのだ。
「ねえお兄ちゃん、今日だけは一緒に寝て?」
あんな告白を受けたあとだと、素直に頷きにくいんだが。
「大丈夫、襲ったりはしないから」
「中学生がへんな冗談言うじゃありません!」
お兄ちゃんは将来が心配ですよ!
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