第381話 19章:かみまい!(4)

「ねえ、早く解いてよ」


 ウカの視線はまっすぐ双葉の方を向いている。


「姉さんって……?」

「戯れ言だ。耳をかすな!」


 大きな声を出してしまってから後悔したがもう遅い。


「え……? ホントなの?」


 できるだけ平静を装ったつもりだった。

 だが、双葉に隠し通すのは無理だろう。


「どちらが姉さんかは微妙なところだけど」


 感情の起伏が少ないウカだが、その無表情の裏にどこか楽しそうな声音が見え隠れする。


「どういうこと? あなたがヴァリアントになる前に姉妹だったの? それならお兄ちゃんとも兄妹ってこと?」


 背中に双葉の視線を感じる。


「いいえ。姉妹なのはあなたと私だけ。神話の時代、私はスサノオ様の娘だった」


 この先を遮ることはできる。

 だがそれでは、双葉の中にしこりが残るだろう。

 知らずにすむならその方がよいと思っていたが、いつまでも隠せるものではかったのかもしれない。


「そして姉さんは、ヴァリアントとして顕現したスサノオ様の娘。だから、間接的に姉妹ということ」

「え……? だって、あたしのお父さんとお母さんは……嘘だよね……? お兄ちゃん……」


 オレはウカを警戒しつつ、双葉に振り返る。


「あとでちゃんと話そう」


 そう言うのが精一杯だった。


「そっか……やっぱりホントなんだね」


 双葉の瞳が揺れると同時に、神域絶界が解除された。


「あっ!」


 わざとではなかったのだろう。

 だが、それを逃すウカではない。

 瞬時に彼女の姿がかき消えた。


 だが今はそんなことを気にしている場合ではない。


「双葉……」


 オレはそっと双葉の頭を撫でてやる。


「お兄ちゃん……」


 双葉は戸惑いと驚き、そして哀しみの入り交じった表情で、視線を地面に落とした。


「あ!」


 しばらくそうしていた双葉は、何かを思いついたようにぱっと顔を上げた。


「どうした?」

「ってことは、お兄ちゃんと結婚できるってこと!?」

「はぁ……お前なあ?」

「でしょでしょ?」

「まあ、そうなんだろうが、今それ?」

「大事なことだよ! あたしのお父さんはお父さんしかいないし、お母さんもお母さんしかいない。もちろんお兄ちゃんもね! それに未来の夫までくっついてくるなんて最高だよ!」

「いやいや、なんでオレと双葉が結婚するってのが確定事項なんだよ」


 オレの気持ちは?


「傷心の妹に愛の手を。結婚だけに」

「別に上手くねえからな!」

「えへへ。でも、チャンスはあるよね。あーあ、なんか疲れちゃった。先に帰ってるから、みんなは楽しんできてね」


 双葉はそうまくしたてると、オレの返事を待たずに背を向けた。

 慣れない着物で小走りにかける双葉を追わなかった。


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