第380話 19章:かみまい!(3)

 ヒミコは何か大きなことを企んでいる。

 その懐刀であろうウカは倒しておいた方がいいように思える。

 このタイミングでヒミコを刺激するのが正解かはわからないが……。


 オレが由依に目で合図を送ると、彼女は双葉を庇うようにじりじりと立ち位置をずらしていく。

 双葉は近接戦闘が得意なタイプじゃない。

 万一ってことがある。


 オレはウカに向かって地を蹴った。


 まずは前回の続き、小手調べだ。

 ウカ目がけて振り下ろした剣は、彼女の掌で止められた。

 低鬼やダークヴァルキリーなら、豆腐のように斬れる一撃をだ。


「問答無用か」


 ウカが逆の手で正拳突きを放ってくる。

 紙一重で避け――いやだめだ!


 オレはその拳を大きく横に跳んで避けた。

 それでもなお、拳から襲い来る空気の渦がオレのダウンコートを引きちぎった。

 羽毛があたりにばらまかれる。

 白鳥家に用意してもらったものだから高いはずなんだよなあ……。


「へぇ……避けた? ヒミコ様はナンバカズには手を出すなと言っていたけれど、遭遇してしまったのだからしょうがない。それにお前はヒミコ様の邪魔になる」


 ウカの瞳に殺気がこもる。

 一瞬でオレの懐に飛び込み、ボディーブローを放つ。


「はや――」


 由依がそう呟く前に、オレは剣の柄でその拳を叩き落とした。


 ――ボギィ


 右の拳が鈍い音をたてて壊れたにもかかわらず、ウカの回し蹴りがオレの首を襲う。

 オレは前に踏み込み、膝を肩で受けつつ、ウカをはじき飛ばす。

 体勢を崩すしたウカを追い、そのまま胴を真っ二つ!

 ……にするはずだったオレの剣の鍔を蹴ったウカは、大きく斜め後方にジャンプ。

 由依達の方へと向かう。


 だがそうされることも想定の範囲内!

 もちろん警戒はしている!


 オレは地面を強く蹴り、ウカの着地点で待ち構えた。


「くっ!」


 魔力をこめたオレの斬撃は、ガードしたウカの両腕を斬り飛ばした。


「腕が……」


 とっ、とっ、とウカは軽いステップでこちらから距離を置いた。

 睨み合いは数秒。


 ウカから殺気が消えた。


「たしかにこれは手を出してはだめだな」


 ぽつりとそう言うウカ。

 諦めた……?


 だが神域絶界の中では逃げ場はない。

 どうするつもりだ?


「この結界、解いてくれない?」

「そう言われて、はいそうですかと解くと思うか?」

「ナンバカズに言っているんじゃない。姉さんに言っている」


 こいつ――っ!


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