第378話 19章:かみまい!(1)
■ 19章 かみまい! ■
年越しにはろくな思い出がない。
転生前は会社の自席で仕事をしながらインスタントそば(付け合せは栄養ドリンク)を食べるのが当たり前だったからな。
推しVTuberの年越しライブをリアタイできなくて、咽び泣きながら働いたものだ。
それがどうだろう。
四人の晴れ着美少女と一緒に、年越し初詣である。
かなりの人混みだが、誰もが振り返る集団だ。
金髪巨乳幼馴染、しっかりモノのロリ(義妹)、引っ込み思案系むっつり、銀髪お姉さん。
これで目立つなという方が無理な話だ。
「ほとんどお祭りね!」
由依がキラキラした目で、境内に続く道の左右にずらっと並ぶ屋台を見つめている。
「オレも大きな神社の初詣は初めて来たけど、すごいもんだな」
深夜だというのに、よくもまあこれだけの人が集まるものだ。
そりゃあ、臨時列車も出るはずである。
「ねえカズ! あれなに!? あれなに!?」
由依が指差したのは長野名物の「おやき」だ。
小麦粉の生地に野沢菜などを入れて焼いたものである。
北海道出身の上司が、おやきを大判焼きのことだと思って話を進め、客先とトラブルになったことを思い出す。
なお、尻拭いはオレがした。
「屋台は帰りにしてください」
双葉がピシャリと言う。
しっかりした義妹である。
「でも袋に入った綿アメならじゃまにならないよね」
そう言いながらふらふらと綿アメ屋に向かうあたり、テンションが上がっているのかもしれない。
「日本は不思議な国ね。つい先週はクリスマスをして、今日は神道」
システィーナは興味深そうに周囲を見回している。
まあ気持ちはわかる。
日本で育つと、それが当たり前に感じていたが、異世界では結構戸惑ったものだ。
「あ! アニキ!」
「真田じゃないか」
声をかけてきたのは、いつぞやのリーダーキャンプでなつかれた少年だ。
双葉のクラスメイトだったはずである。
となりには両親らしき男女がいる。
「あけましておめでとう」
「お、おう」
一方の若い二人はそっけない挨拶である。
双葉は義務をはたしたという感じだが、真田は照れまくりだ。
両親と一緒の時に、クラスの女子と会うのって恥ずかしいよな。
「あら双葉ちゃんじゃない。またテストトップだったんて? うちの子に勉強教えてやってくれない?」
「か、かーちゃん、よけなこと言うなよ!」
真田君のお顔は真っ赤である。
世の母親ってみんなこうなんだろうか。
双葉はそんなクラスメイトを静かに、そしてかすかに羨ましそうに眺めている。
「あけましておめでとうございます。双葉の兄です。真田君にはいつも双葉がお世話になっております」
オレは保護者の務めを果たしておく。
「こちらこそお世話になってます。しっかりしたお兄さんですね」
そう答えたのは父親の方だ。
優しそうなオヤジさんである。
「双葉の義姐です。うちの双葉がお世話になってます」
そう言い出したのは由依だ。
「「え?」」
ほら! 向こうのご両親が困ってるだろ。
「ちょっと由依さん、変なこと言わないでください。あなたの義妹になった覚えはありません」
「いいじゃない。既成事実よ」
「言葉の使い方まちがってませんか」
「やめろやめろ。話がややこしくなる。すみません、ちょっと家庭の事情か複雑で」
オレの苦しい言い訳に、真田夫妻は苦笑いするしかなかった。
「そういやさっき、山田に会ったぞ。アイツ普段はあんななのに、親とはぐれて半べそかいてたんだぜ」
「助けてあげたの?」
「い、いや……」
真田はがんばって話題を振ったようだが、見事に空振りをしていた。
こりゃ双葉の気を引ける日は遠そうだ。
「それじゃあ失礼します。ほらいくよ」
両親につれていかれる真田は、ほっとしたような名残惜しいような微妙な表情をしていた。
どうやらまだ双葉のことが好きらしい。
青春だねえ。
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