第370話 18章:クリスマスの夜と言えば空を飛んでリングを取る(2)

 教室を後にしたオレ達は、白鳥家への道を並んで歩いていた。


 先程から、由依が不安げな顔で、チラチラこちらを見ている。


「どうかしたのか?」

「えっとね……クリスマスは双葉ちゃんと過ごすの?」

「さっきのやりとりか。家族で過ごすつもりってのはホントだ」

「そっかあ……」


 ちょっとからかってやろうかとも思ったが、このしょげた顔はいつまでも見てられない。


「一緒の敷地に住んでるんだから、家族としてクリスマスを過ごしたいなって思うんだがな」


 は……恥ずかしいセリフ!

 由依とも過ごしたいと直接言えればいいのだが、オレにはこれが限界だ。


 ぽかんとした顔でオレを見つめた由依は、頬を染めたかと思うと、すぐに眉をひそめた。

 忙しいヤツだ。


「カズがそんなこと言うなんておかしいわ……。早乙女にパーティーのことを聞いたのね? もうっ!」


 スルドすぎない!? 幼馴染怖い!


 口調はこうだが、本当に怒っているわけではなさそうだ。


「由依主催のパーティ、楽しみにしてるよ」

「うんっ! まかせといて! クリスマスのことはばっちり調査済みだから!」


 調査……?

 若干不安のよぎる表現だが、由依なら大丈夫だろう。


「カズは『家族で』と言ったけれど、美海ちゃんも呼んでいいかしら?」

「もちろんだ。一人だけ仲間はずれにするのも、こっちだって気まずいしな」

「やった! ありがと!」


 オレが礼を言われることでもないとは思うが、由依が楽しそうだしそれていいだろう。


◇ ◆ ◇


 そんなこんでやってきたクリスマス当日。

 パーティなんてものは苦手なオレだが、今日はもう楽しみでしかなかった。


 オレ、双葉、美海の三人は、白鳥家の敷地にある応接館にいた。

 来客と商談などをするための一つらしい。

 広めの西洋風茶室といったところだろうか。


「由依さんどうしたんだろう」


 双葉が首を傾げるのもわかる。

 いつもの由依なら、集合時間より先に来て、オレ達を出迎えそうなものだ。


「この暖炉、飾りかなあ? エアコンきいてますもんね」


 美海が興味深そうに覗き込んでいるのは、煙突に繋がった昔ながらの暖炉だ。

 火はおろか、薪も灰もないのでオブジェだろう。


「火のついてない暖炉って、ただの通気口だよね。温かい空気が逃げちゃいそう」


 風のながれからすると、煙突はしっかり外までつながっている。

 ということは、この暖炉は飾りではなく、使えるということだ。

 そういえばこの建物、少し前から工事してたよな。

 もしかしてこの暖炉――


 オレの思考を中断したのは、暖炉の中に突如降ってきた赤い影だった。


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