第369話 18章:クリスマスの夜と言えば空を飛んでリングを取る(1)
【前書き】
カズ達の世界はぼちぼちクリスマスということで、中編をお送りします。
【本文】
■ 18章 クリスマスの夜と言えば空を飛んでリングを取る ■
クリスマス。
それは、丸い頭部の水陸両用モビリティスーツに似た名前で呼ばれるペアが幸せそうな顔で街を歩き、ホテルに消えて行く日である。
諸説あるのだろうが、少なくともオレの認識はそうなのだ。
転生前の最後に過ごしたクリスマスの思い出は、会社に泊まり込んでのクレーム対応だったけど。
社長がケーキの代わりにと、栄養ドリンクを差し入れてくれたんだよな。
どのへんが代わりだったのか、今でもさっばりわからない。
糖分か?
一方、高校生の場合、友達同士で過ごすことも多いらしい。
らしいと表現せざるをえないあたり、悲しいものがある。
だがしかし!
今回は違うのである!
クラスの連中とも上手くやれている(はず)!
オレにお誘いがあっても良いんじゃなかろうか。
誘われるのを待たずに幹事をやれという意見もあるかもしれないが、幹事という単語を聞くと頭痛がするのだ。
ブラックリーマン時代のパワハラがね……。
さて、時はクリスマス2週間前の放課後。
皆が帰り始めるのを引き止めたのは、委員長の渡辺だ。
「今年のイブは水曜なので、放課後に駅前のカラオケでクリスマス会をしようと思います! 参加するよって人は今週末までにれんらくちょーだいね! 今のところ参加者は十人だけど、大きめの部屋をとっちゃったから、たくさん参加してくれると嬉しいです!」
渡辺の演説に教室がざわめく。
既にしっかり人数を集めているあたり、やり手だ。
普段つるんでいるグループ以外だと、こういった催しには参加しにくいものだ。
だが、既に十人もいるなら自分も行っていいかなと思う奴もいるだろう。
「渡辺さん企画ってことは、綺麗所はだいたい来るだろ? 行くか?」
「い、いや……おらはやめとくよ……」
「渡辺ちゃーん! あたし参加で!」
「あ、じゃじゃあ僕も!」
「おいおい田中、まさかお前」
「ち、ちがうよ!」
教室はまさに青春まっさかりである。
ま、眩しい……。
そんな中、渡辺がオレと由依の席へとやってきた。
「クリスマス会、二人ともどう?」
その一言に、クラスの視線が集まる。
オレはもちろん、使命に追われて氷のようだったかつての由依ならば、誘われることはなかっただろう。
記憶にある一回目の人生では、渡辺がクリスマス会の話を始めたタイミングで、由衣は教室を出ていた。
由依も良い方向に変わったということだろう。
半ば公認カップル扱いをされつつあるオレ達だが、それでも由依ほどの美少女が来るとなれば、男子の参加率は上がるだろう。
こういった催しは苦手だ。根が陰キャだからな。
だが、興味があるのも事実。
陽キャグループがいったいどんなウェーイ(未来語)をしているのか、気にはなる。
オレはチラリと由依を見た。
何か言いたそうだが、無理やり飲み込んだという表情だ。
その理由をオレは知っている。
メイドの早乙女さんがオレに教えてくれたのだ。
どうやら由依は、オレ達とクリスマスを過ごしたがっているらしい。
こそこそ準備をしているとか。
北欧系の母を持つだけに、『クリスマスは家族で』という意識があるのかもしれない。
由依の気持ちと、オレの興味。
どちらを優先するかは考えるまでもない。
「悪いけど、クリスマスは家族で過ごすんだ」
「わーお、欧米風ってやつ? じゃあしょうがないかぁ。白鳥さんは?」
「私も家族と。ごめんなさい」
「白鳥さんはそうだよね。残念だけどしょうがないかぁ」
渡辺はオレと由依を見比べ、少しわざとらしく、はっとした表情を見せた。
「まさか、二人で過ごすからとか……」
この質問を由衣に答えさせるわけにはいかない。
オレはまだ予定をたてていないが、由依は違うからだ。
嘘はつかせたくない。
「そんな予定はないよ。妹もいるしな」
「そっかあ」
そのほっとした表情はどういう意味なんだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます