第368話 17章:美女とヴァリアント(20)

SIDE カズ


 少女を保護するため、魔力を追ってきた森の中で見たのは、スィアチが少女を喰っている光景だった。


 彼女に手は出さないと思っていたが、オレの勘がハズレた?

 いや――


「こいつっ!」


 気色ばむ由依を手で制し、周囲を観察する。


 戦いの形跡、ヴァリアントが倒された魔力の残滓……。

 そうか……。

 こいつは、少女のために怒ったのか。


 スィアチはオレ達に気付いているだろうに、こちらに背中を向けたまま、少女の死体を貪っている。

 なぜかその背中はとても小さく見えた。


 たしかにアンタは他のヴァリアントとは少し違うみたいだ。

 だが、このまま見逃すことは絶対にできない。


 オレは黒刃の剣を取り出すと、スィアチの背後に立ち、その首を撥ねた。


 ごろりと地面に転がった首がこちらを向く。

 それが紫色の煙となって消える直前、その顔は泣いているようにも見えた。


◇ ◆ ◇


 スィアチを倒してから一週間。

 街はすっかり平穏を取り戻していた。

 マスコミもブギーマン事件などなかったかのように、ワールドカップ初出場のニュースに湧いている。

 居間のテレビからは、どのチャンネルもそんなお祭り騒ぎが流れてくる。

 オレは由依と並んでソファに座り、ぼーっとブラウン管を眺めていた。


 今でもスィアチの最後の顔を思い出す。

 殺したことに後悔はない。

 あいつは、これからも気軽に人を殺して回っただろう。

 だが「共存する道があったかも」なんていう甘い考えが頭をよぎってしまう。


「無理だったよ」


 由依がそっとオレの手を握った。


「カズはこれから殺されるはずの多くの人を救った。それでいいと思う」

「顔にでてたか?」

「ううん。でも、わかるよ。幼馴染だもん」

「そうか」

「そうだよ」


 由依がそっとオレの頭を胸に抱き寄せた。

 今はこの温かさと柔らかさに甘えてしまおう。


 そして、今夜はこっそり練習していた料理でも振る舞おう。

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