第367話 17章:美女とヴァリアント(19) SIDE スィアチ

SIDE スィアチ


「なぜオレがあの少女が殺されると困ると思うんだ?」


 脅す側があべこべである。


「理由はわからんさ。だが、あんたが大事そうにしてたからな。理屈はともかく、効くと思ったんだよ。正解だろ?」


 ここで弱みを見せるのは悪手だとわかってる。

 だがあの少女を失うのは惜しい。

 まだしばらく喰う気はないし、死体は喰っても美味くないのだ。


「わかったよ。逃げねえ。だが――」


 オレは家にしかけておいたトラップを発動。

 ひょいと拾ったステッキの先をナンバカズの背後に出現させた。


「お前には死んでもらう!」


 ステッキの先端がナンバカズの後頭部を狙う。


 先端の周囲50センチを強制転移させる、オレの奥義だ。

 効果範囲は狭く、事前にチャージも必要だが、人間相手なら必殺の一撃になる。

 見てからかわせる速度ではない。


 しかし、必殺だったはずの攻撃は、こちらを振り向きもしないまま避けられた。

 転移を発動させた瞬間には既に避け始めていなければ、到底間に合わないはずだ。


「なぜ避けられた!」


 そう叫んだ時には、オレの首は胴体から離れ、床へと落下を始めていた。


「お前達が考えるような戦法は何万通りも経験済みだ」


 冷たい目がオレを見下ろす。

 なんて目をしやがる。

 まるで、百年戦い続けた戦士みたいな目だ。


 ――敵わない。


 短い攻防だったが、それを理解するには十分な時間だった。


 人間相手にこれを使うことになるとはな。


 オレは落ちる自分の首を空中でキャッチしつつ、仕込んでおいた最後の転移魔法を発動させた。




 転移先は少女の行き先と同じだ。

 もともとは、合流のために仕込んでおいたものである。

 こうして緊急退避用でもあったのだが、まさか本当にその用途で使うことになるとはな。


 到着したのはとある山奥だ。

 とりあえあえず少女をつれて逃げよう。


 だが、オレの考えは眼前の光景に打ち砕かれた。


 ヴァリアントが2体、少女を喰らっていたのだ。

 内臓はぶちまけられ、腕と脚が片方ずつなくなっている。

 少女は既に事切れた後だ。


「お前がスィアチか」


 片方のヴァリアントが真っ赤な口でそう言った時には既に、オレの視界は怒りで真っ白になっていた。




 気付いた時には、2体のヴァリアントはオレの手でぐちゃぐちゃに引き裂かれていた。


 名前も知らないそれらは、紫の煙となって、虚空へと消えていく。

 その場には、ばらばらになった少女の肉片と、恐怖に歪んだまま硬直した彼女の顔が残されていた。


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