第351話 17章:美女とヴァリアント(3)

 なお、双葉の通う中学は、臨時休校になったらしい。

 電話連絡網を使わず、担任と数名の父兄が直接連絡してまわったようだ。

 連絡網では登校時間に間に合わないからだろう。

 この時代にしては、かなり判断の早い学校だ。

 どちらにしろ、休ませるつもりだったが。


 双葉なら最悪神域絶界でなんとかなるので、ひとまず白鳥家で留守番を頼んでおいた。

 どこでなにが起こるかわからないので、早乙女さんを護ってもらうのだ。

 ただし、いざとなったら一人ででも神域絶界に籠もるよう言いつけてきた。


 誰かが教室の天井から吊られたブラウン管テレビをつけたが、問題の局は時代劇の再放送を流していた。

 他の局も朝の事件に一切触れていない。

 クラスメイト達もそのことには首をかしげ、陰謀論が巻き起こっていた。


 朝のホームルーム開始のチャイムが鳴っても、担任は教室に現れなかった。

 職員会議が紛糾しているのだろう。


 ホームルームの時間が終わり、1時限目開始のチャイムが鳴った頃、担任がやってきた。


「今日は臨時休校だ。できるだけ固まって帰れ。絶対寄り道はするなよ」


 担任が頭をがしがし掻きながらけだるげにそう言うと、教室で歓声が上がった。


◇ ◆ ◇


 学校から帰ってきたオレと由依、そして一緒についてきた美海に双葉を加えたいつもの4人は、リビングのソファに座っていた。


 メイドの早乙女さんが集めてくれた情報を由依から聞くためだ。


「手に入った情報をまとめるわね。マスコミがそろってだんまりなのは周知の通り。これは国のトップからの指示みたい」


 日本の政治家はヴァリアントとズブズブだったからな。

 ありえる話だ。


「現場で何が起こったかだけど、犯人はアナウンサーを『刺し殺した』あと、カメラが止まっているのにも気付かず、カメラにアピールをしながら合計5人を殺傷。関係者が全員退避後、スタジオに犯人を閉じ込めたはずが、機動隊が突入したときにはもぬけの殻だったそうよ」

「ちょっと待て。刺し殺した?」

「そう記録にはあるみたい」

「喰い殺したでも、噛み殺したでもなく?」

「ええ」


 監禁場所から逃げたことは、奴らの能力なら可能だろう。

 方法はいくつもありそうだ。

 だが殺害方法は……。


「既に記憶の改変が始まってるのか」


 ヴァリアントに食い殺された人間は、因果ごと世界から消滅する。

 その結果、人の記憶からも消えてなくなるのだ。

 オレのように、特別な魔法で記憶を定着させないかぎり。


「映像も残ってるのに?」


 双葉の疑問ももっともだ。

 この時代、既にインターネットは存在しているとはいえ、まだ動画投稿サイトなんてものはない。

 画像一枚ダウンロードするのにも、えらく時間のかかっていた頃だ。

 とはいえ、自宅にビデオデッキはあるし、テレビ局にもとのテープも残っているだろう。

 朝のニュースをわざわざ録画するような人は多くはないだろうが、ゼロでもないはず。


 そこまで考えて、オレはふと、以前の事件で不自然に朽ちた写真があったのを思い出した。

 あの時も、ヴァリアントに喰われた人間の写真が影響を受けてたな……。

 ということは、ビデオテープもそうなのだろう。

 喰われたアナウンサーのことが人々から忘れられるにつれ、記録も消えていくのだ。


「とれる方法は大きくわけて3つだな。ひとつはこのまま無視し、周囲の警戒を続けること。あのヴァリアントがオレ達に危害を加えるつもりがないなら、それも手ではある」

「でもそれって、狙われるかどうかわからないまま過ごすってことでしょ?」

「由依の言う通りだ。だが、ヴァリアントは世界中にたくさんいる現状、実は状況が変わったわけじゃないってことは考慮しておきたい。人間の天敵だからといって、オレ達が生活圏外まで狩りまくることのリスクは、これまで何度も話し合った通りだな」

「たしかにそうね……」

「2つ目は、あのヴァリアントを探して殺すことだ。わかりやすい手段だが、奴が組織的に罠を張っていた場合、そこにつっこむことになる」

「でもカズなら罠ごと潰せばいい。でしょ?」


 信用してくれるのは嬉しいが、例えばなりふりかまわず由依だけを狙う場合、オレを出し抜く方法はいくつかある。

 もっとも、その手段を思いつくのは、オレが自分の能力を把握しているからだし、多大な犠牲を払う覚悟が必要だが。


「そして3つ目は、奴が組織的に動いていると仮定して、その根っこを掴むことだが……」


 オレは視線を窓の外へと移した。

 つられて女子3人もそちらを見た。


「3つ目を選ぶことになるかもな」

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