第352話 17章:美女とヴァリアント(4)

 オレがそう言うと同時に――


 ――ドォンッ!


 白鳥家の敷地を覆うように展開していた結界に、強い衝撃があった。

 魔力のある者には、近くで花火があがったような音と衝撃を感じられただろう。


「何いまの!?」


 ソファから立ち上がった由依がすぐさま神器を起動。美海もそれに続く。

 双葉も呪符を取り出した。


 ――ドォンッ、ドォンッ、ドォンッ!


 しばらくして、再び轟音が響く。


「なんだかノックみたい。私もカズ君にノックされたい」

「こんな派手なノックがある?」


 なぜかバニーガール姿で顔を赤らめる美海の呟きに、由依は眉をしかめた。

 当然のように、セリフの後半は無視されている。

 美海のキャラもすっかり定着してきたなあ。


「あながち間違いじゃないかもしれないぞ」


 そう言ってオレは、結界に衝撃が加えられている場所へと向かった。




 そこは白鳥家の正門だった。


「ヒミコ……」


 その姿を見た由依達がさらに警戒を強める。


 ドォンッ……


 オレ達がやって来たのを見つけたヒミコは、結界をノックする手を止めた。


「随分と派手なノックだな」

「破らなかっただけ、誠意を感じてほしいものだ」


 オレ達とヒミコは、門を挟んで向かい合う。


「今朝の一件か」

「そうだ」


 オレの問いに、ヒミコは忌々しげに頷いた。


「あんたが直接来るってことは、アレは少なくとも日本神話系がしかけたわけではないと思っていいんだな?」

「話が早くて助かる。ヤツの名はロキ」

「北欧系か」


 ヒミコは頷いた。

 ロキといえば、北欧神話のトリックスターとして、かなり有名どころの神だ。


「我々はヤツを討つ」

「あんたらは無関係だと? それともはめられでもしたか?」

「前者だよ。北欧が何か企んでいるのか、個人の暴走かは知らぬ。だが、いくらなんでも迷惑が過ぎる。人間は数が多い。我らにたどり着く者も現れよう。人間は狩られる側であるべきだ」


 さらりと言いやがる。

 まあ、人間も鹿やウサギに対して同じことを言うわけだが。


「それで、オレ達に何の用だ?」

「情報をくれてやろうと思ってな」


 ヒミコが押し付けてきたのは、複数あるロキの根城だった。

 どうやら一所にはとどまらず、転々としているらしい。

 

「借りだとは思わんぞ」

「もちろん。善意だからね」


 いけしゃあしゃあと言うじゃないか。


「オレ達を動かしたいだけだろう?」

「そう捉えてもらってもかまわない。このヒミコが直接来たのだ。情報は確かだよ。それではね」


 そう言い残すとヒミコは虚空に消えた。


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