第349話 17章:美女とヴァリアント(1)

 ■ 17章 美女とヴァリアント ■



 色々あったイタリアから帰国して2週間。

 システィーナは白鳥家の生活に少しずつ慣れ始めていた。


 だが彼女の体は日本に来てからも衰弱し続けた。

 『核』が取り除かれたことの影響だ。

 いまは体がそれに必死で慣れようとしているのだ。

 日々かなりの魔力を使うらしく、1週間は保つと予想していたオレの注入した魔力は、1日でカラになった。

 帰国5日目が衰弱のピークだったようだが、それからは少しずつ良くなっていっている。

 まだそれなりに時間は必要だろう。

 ということで、オレはこうして毎朝彼女の部屋を訪れ、心臓に魔力を供給をしている。


 恥ずかしそうにパジャマの胸元を開けたシスティーナに、そっと指先を伸ばす。

 できるだけ膨らみには触れないよう、心臓のあたりに2本の指を軽く乗せた。

 そこからゆっくり魔力を供給していく。


[んふっ……あっ……気持ち……い……]


 システィーナがイタリア語で喘ぎながら、ビクンと体を震わせる。

 それとともに、青白かった顔に血色が戻っていく。


「アリガトウ」


 システィーナは弱々しく微笑みながら、日本語でお礼を言ってくれた。

 1日をほぼ白鳥家の敷地内で過ごす彼女は、あいた時間を日本語の勉強にあてているらしい。


「どういたしまして」


 オレが日本語で返すと、システィーナの顔がぱっと明るくなった。


「ワタシノ、ニホンゴ、ワカッタ?」

「ああ、上手だよ」

「チョベリグ?」

「それはどこで覚えたんだ!?」


 この家にギャル語を使うやつはいないはずなんだが。




[システィーナさん、調子はどう?]


 システィーナと一緒に食堂に入ると、そこには既に制服姿の由依がいた。

 由依のイタリア語が日に日に上手くなっている。


「ダイジョウブ」


 一方、システィーナは懸命に日本語で答えた。

 由依がちらりとこちらを向いた。


「この調子で回復するなら、あと数日もすればイタリアを出た時くらいには戻ると思う」

「そっか。一安心だね」


 由依は僅かに胸をなでおろした。


 白鳥家おかかえの医者にも診せてはみたものの、やはりどうにもならなかったのだ。


「おはよーございます」


 そこへ双葉も合流し、朝食が始まった。


 しかし、ずっと続いてほしいと思える穏やかな時間は、テレビの中の出来事により壊された。


 ニュースと呼ぶには賑やかすぎるが、ワイドショーよりはまだ真面目。

 朝はそんな番組が多い。


 白鳥家の食卓では、毎日異なる局が流れている。

 少しでも多くの俗世に触れておくという家の方針らしい。

 そんな言い方が出てくる時点で普通ではないと思うのだが、今更だろう。


 テレビはついているものの、誰も真剣には見ていない。

 気になるトピックが聞こえてきたら、それについて話すくらいだ。

 しかし、今日は様子が違った。


「お兄ちゃん、なんか様子がおかしくない?」


 双葉につられてテレビを見ると、中年のメイン司会者が若い女子アナの肩を背後から掴んでいた。

 カメラ外から色々指示がとんでいるようで、スタジオが騒然としている。

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