第348話 16章:ヴァリアント・ザ・オリジネーション(32)

 オレは思わずシスティーナの肩を掴んだ。


「どうしたのカズ? 私、何か変なこと言った?」


 システィーナはぽかんとした顔でオレを見つめている。


「システィーナ……だよな?」

「なにを言ってるの? 旅行で疲れた?」


 先程の別人のような雰囲気はない。


 ――セッテ。


 システィーナの本来の人格は、彼女が目覚めたときには消えていた。

 『核』の影響なのか、礼拝堂で一瞬現れたのが奇跡だったのかはわからない。

 二度と出ないかもしれないし、何かのきっかけで現れるかもしれない。


 それは、システィーナとしての記憶も同様だった。

 消えたというより、一部はセッテだったころのものと混ざっているようだ。


 弟は何年も前に交通事故で死んだと思っているし、バチカンから受けていた『検査』のことも、ヴァリアントとの戦いも覚えてはいなかった。

 自身の心臓についても、生まれつき弱いのだと認識しているようだった。


 それは良いことなのかもしれない。

 生きていけなくなるほどの辛い記憶なら……。


 もしかして、彼女本来の人格――セッテが何かしたのだろうか。

 なんてことを考えてしまうが、真相はわかりようがない。


 そんなこんなで、オレと由依はシスティーナを日本に招くことにした。

 いずれにせよシスティーナの心臓には、オレが定期的に魔力を注入しないといけない。

 オレがイタリアに通うことも可能だが、近くにいてくれた方が何かあった時に対処しやすい。

 魔力で心臓の補助をするなんて、流石のオレも長期間にわたって他人にやるのは初めてだからだ。


 ひとまず彼女は、白鳥家でメイドとして働きながら、日本語を学ぶらしい。

 歳のわりに少し子供っぽい彼女だが、気立てはよい。

 すぐになじむことだろう。


 気になるのは、バチカンの今後の動きだが……。

 いつくか手はうってきたが、相手は世界中に根を張る組織だ。

 正面からの殴り合いと違って、全貌の見えない相手というのはどうにも苦手である。


「大丈夫だよ……」


 由依がそっとオレの手に手を重ねてくる。


[あら仲良しカップルね。お姉さん妬けちゃうなあ]


 そんなオレ達をニヤけたシスティーナがひやかしてくる。


 そうだな。今心配してもしょうがない。

 これ以上やつらが何かしてくるなら、今度こそ世界のことなんて気にせずぶっつぶすだけだ。




 帰りの飛行機は、全員ぐっすりだった。

 なお、日本の空港には、「オカエリナサイ(イは左右反転)」と横断幕を掲げた華鈴さんが出迎えてくれていた。

 なにこれ、めっちゃ恥ずかしいんだが!?

 他人のフリさせてもらうよ!


「カズさんおかえりなさい! 寂しかったですわ……って、なんですのその西洋美人は!? これ以上ライバルが増えますの!?」


 これを大声でやるものだから、注目されまくりである。

 恥とか外聞まわりのブレーキぶっこわれすぎだろこの人!


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