第347話 16章:ヴァリアント・ザ・オリジネーション(31)

◇ ◆ ◇


 日本へ帰るため、空港へやってきた修学旅行生達は、最後のお土産物色タイムだ。


「とんでもない修学旅行だったな」


 オレは双葉への土産を買い終え、空港の出発ロビーでぐったりしていた。

 さすがに疲れた。

 魔力も空に近い。


「良い思い出ばかり……とは言い切れないものね」


 となりで由依が小さくため息をついた。

 その視線の先には、トイレを出てゆっくりこちらに歩いてくるシスティーナの姿があった。


[ふぅ……いやになっちゃう。ちょっと歩いただけでこんなに疲れるなんて]


 イタリア語で話しかけてきたシスティーナは、オレの向かいにすわった。

 なお、オレの両隣は由依と美海である。


[心臓は大丈夫か?]


 オレもシスティーナと話す時はイタリア語だ。


[今のところ落ち着いてるかな]


 そっと胸に手を触れるシスティーナはやはり不安げだ。


[でもよかったの? 由依がいくらお金持ちで、私がカズのホストファミリーだったからって、日本で手術をするのに、泊まらせてもらうなんて。術後の経過観察を含めると、かなり長くなるみたいだけど……]

「長い文になると上手く聞き取れないけど……どうせまだ遠慮してるんでしょ? 心配いらないって伝えて」


 由依は「しょうがないなあ」と肩をすくめてみせた。


 オレが通訳してやると、システィーナは由依のとなりにくると、彼女をぎゅっとハグした。


「おお……金と銀の百合……」


 大量のお土産を手に下げて戻ってきた佐藤が、その光景を見て何やら感動している。


[カズも]


 両隣りの埋まってるオレの前にきたシスティーナが、頬にキスをした。


「ちょっと!」「むう」


 由依と美海が不満げな顔をするが、それ以上追求することはしない。


「ななな……また一人難波の餌食に!?」


 佐藤がわざとらしくのけぞってみせる。


「餌食とは人聞きの悪い」

「そもそも、なんで出発ロビーの中にまで見送りにきてもらってるんだよ。他のホストファミリーはみんなゲートで別れただろ」

「そりゃあ出国するわけでもないのに、ここまで来るはずないじゃないか」

「え? システィーナちゃん、どこかに行くのか?」

「日本に来るぞ」

「もともとそういう予定だったとか?」

「いや、今日決まった」

「やっぱり餌食になってるじゃないかー! うわーん!」


 佐藤は泣きながらトイレに駆け込んで行った。

 海外で荷物を手放すとは、防犯意識の低いやつだ。


[変わった友達ね]


 そんな佐藤をシスティーナは首をかしげながら見送った。


「『私からも』お礼を言うわ。ありがとう」


 システィーナはいつもとは違う、張り詰めた冬の空気を纏ったような雰囲気でそう言って、反対の頬にもキスをしてくれた。


「…………セッテ?」


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