第346話 16章:ヴァリアント・ザ・オリジネーション(30)
「ぐ……うぅ……」
オレは木の椅子にこしかけ、目を覚ました老人を見下ろしていた。
彼が気絶していたのはほんの数分だ。
「気分はどうだ?」
「私になにをした……」
老人は上体を起こしながら、胸のあたりをさすった。
「感じるか?」
「まさか……貴様……私に『核』を埋め込んだのか……?」
「さすが、『核』のことをよくわかってるじゃないか」
もちろん皮肉である。
「なんてバカなことを……」
老人は顔を歪ませ、オレを睨みつけてきた。
「バカなことだと? お前がシスティーナにしたことだろう」
「私と駒では価値が違うだろう! それもわからんとは、いかに強いとはいえ、貴様も所詮は駒でしかないということか」
「ずいぶん偉そうだが、自分の立場がわかってんのかね」
「これもまた神が私に与えた試練なれば、乗り越える方法もあるはずだ!」
「神はそれほど万能でもないさ」
少なくとも、オレが知っている神はな。
「神への侮辱は許さんぞ!」
老人は今までで最も強く激昂してみせた。
やっていることはアレだが、神への敬意は本物らしい。
「じゃあ、試してみるんだな。あんたの心臓に埋め込んだ『核』は、まだオレの結界に護られている」
「まさか私を傀儡にする気か!」
「普段から悪巧みをしているだけあって察しがいいな」
「その結界はオレが死ねば解除される。オレの周囲に危害を加えればオレが解除する。もちろんシスティーナにもだ。さらに、オレからたまにする『お願い』をきかなくても解除される」
一生、体内に『核』があるという恐怖に怯えて暮らすがいい。
「ぐ……貴様ぁ……」
怒りはあれど反省はなしか。
そんなものは期待してなかったけどな。
この手の後悔はあとからやってくるものだ。
「さっそくだが『お願い』をしようか」
オレからの要求は2つ。
1つは『契約』をすること。心臓の『核』はあるが、念のためオレ達に危害を加えないことを契約させた。
破れば激しい頭痛とともに、心臓にある結界が破れる。
もう1つはシスティーナを自由にすることだ。
「わかった……約束しよう……」
老人は奥歯を噛みしめながら、首を縦にふった。
殺してしまわなかったのは、彼の影響力を考えてのことだ。
今、彼を殺すのは、オレがカバーできる範囲を超えた影響が世界に出るであろうからだ。
まあ、死ぬより苦しい思いをするかもしれないが、それこそ自業自得だろう。
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