第344話 16章:ヴァリアント・ザ・オリジネーション(28)
「「「「ぐああああああっ!」」」
司祭達が突如、頭をおさえ、叫びだした。
今、彼らの頭は割れんばかりの痛みに襲われているだろう。
結界を破られた反動である。
人数と場所を要するような強力な結界は、未熟な術士達が使うと破られた際にこういった反動が起きることがある。
自業自得だ。
そこで苦しんでいるがいい。
オレはあらためて懺悔室へと向かった。
先程オレが入ったとなりの入口、声の主がいた方の扉を開ける。
懺悔室の壁を丁寧に調べていく。
声の主彼はここから出ていないはず。
それなのに、彼は既に別のところにいた。
瞬間移動でも使えなければ……あった。
木でできた壁の一部が上下にスライドするようになっている。
奥にあるのは石壁だが、軽く叩いてみると、奥に空洞があるのがわかる。
何かしかけがあるのだろうが、解いている時間はない。
石壁に手を添えると、無理矢理奥へと押し込んだ。
一抱えほどある石は、ズズズ……と重たい音をたてて動く。
やがて石は奥でゴトリと奥へと落ちた。
それを数回くりかえし、這って通れるほどのスペースを確保する。
石壁の奥には大人が少しかがめば立って歩ける程度の通路が続いていた。
オレはその通路を駆ける。
一本道の角を何度か曲がり、分かれ道は目的に近い方角を選ぶ。
そうして暗い通路を駆け抜け、螺旋階段を登った先に声の主はいた。
石造りの狭くひんやりとした部屋には、レトロな放送設備と、ブラウン管のモニターだけが置かれている。
「さすがに早いな」
そこにいた老人が発したのは、懺悔室やスピーカーから聞こえた声だ。
白髪をうしろになでつけ、嫌味にならない程度に飾り付けられた高そうな白い法衣の上からでも、年のわりにがっしりしているのがわかる体躯。
初老としてはよく鍛えていると言っていいだろう。
どこぞの暗黒面に落ちた皇帝のような威圧感を放っている。
想像通り、コロッセオで人々に囲まれていた老人だ。
「逃げなかったんだな」
「キミから逃げられる者などおらんだろう」
「へえ……見る目はあるみたいだな」
「私も忙しい身でね。要件をすませようか。要求はなんだね?」
軽口にのってこない。
それでいて落ち着いている。
年の功ってやつか。
それならオレも、そこそこの功がある。
「システィーナを自由にしてやれ」
「……それだけかね?」
老人はいささか驚いたようだ。
「そうだ」
「出会ったばかりの娘だろう? なぜそこまで気にかける。先ほども、キミならさっさと殺せたはずだ。まさかシスティーナをあれほど圧倒できる人間がいるとは思わなかったが、事実として可能だったろう?」
「あんたにはわからんさ」
友人として出会っちまったんだ。
そして、助けられるかもしれない命だった。
なら助けることに理由はいらない。
もちろん、由依達に危害が及ばない前提だが。
命に優先順位をつけていると言われるかもしれないが、その通りだ。
世界のためなんかじゃなく、オレが助けたいと思ったやつを助けたいんだ。
「まあいい……のぞみがそれだけだと言うなら話は早い。アレはもう用済みだ」
老人の言葉に、オレは奥歯を噛み締めた。
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