第343話 16章:ヴァリアント・ザ・オリジネーション(27)

 『核』を引き抜くのと同時に、システィーナは気を失い、朱い剣も消えていた。

 長椅子で眠る彼女の顔色は、さすがに良いとは言えない。

 鼓動と呼吸も不規則だ。


 彼女の心臓が平常時にどれくらいの魔力を消費するかはわからない。

 今の様子だと、一週間はもつだろうか。


『バカな……。『核』を引きはがしたというのか! そんなこと、人間にできるはずが……』


 スピーカーからの声は動揺に震えている。


「さて、どう落とし前をつけたもんかね」


 こいつのせいで、人がだいぶ死んだ。


『私の部下にならんか?』


 声は尊大な口調でそう言った。

 どんだけ面の皮が厚いんだ。


「よくそんなことが言えるな」


 ここまで来るとむしろ感心する。


『金も地位も名誉も思うがままにしてやろう。世界に散らばる信徒達がお前を崇めることになる。悪い話ではあるまい?』

「あんた、人を見る目がないんじゃないか?」

『なに?』

「オレがそんなものに釣られるように見えるのかってことだ」

『はっはっは。最初はそう言う者も多いがな。最後には皆、結局首を縦に振る』


 声を聞いていた由依が、哀れみの表情で小さく息を吐いた。

 彼女は生い立ち的に、そういう人間をたくさん見てきたのだろう。

 やがて由依はオレにニヤリと笑ってみせた。


 やっちまいな、ということだろう。

 さすが幼なじみ。よくわかってくれてる。


「富と権力かぁ……えへへ……なんでもできるなら、カズ君とあんなことやこんなことを……えへえへ……」


 何やら妄想に耽っている美海はおいておこう。

 バニーガール状態のままなので、欲望がさらに先に出ている。


「こんな場所の地位や名誉になんて興味ないね。オレが興味あるのは……あんたの居場所だけだ」


 会話を続けながら、オレは性質を電気に寄せた魔力の糸を送っていた。

 簡易的な逆探知である。

 某マンガをヒントに編み出した技術だ。

 複雑に入り組む通常の電話回線であれば追うのはむずかしかっただろうが、幸い専用回線だった。


「見つけたぞ!」


 オレは声の主がいる方を睨みつけた。

 魔法で建物をぶち抜いてもいいのだが、歴史的な建築物を傷つけるのは気が引ける。


「システィーナを頼む」


 オレは由依と美海にそう言い、『核』を封印している結界を持ったまま、懺悔室へと向かう。


『そやつを結界から出すな!』


 声に従い、司祭達が結界にかける魔力を高めた。


『いかに貴様が強くとも、その結界は破れんぞ!』


 自信満々なところ悪いが、オレを閉じ込めたければ神域絶界でももってくるんだな。


 オレは剣に魔力をこめると――


「はぁっ!」


 気合一閃。


 ――バリイイイインッ!


 ガラスが何百枚も同時に砕けたようなけたたましい音とともに、結界は砕け散った。


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