第342話 16章:ヴァリアント・ザ・オリジネーション(26)

 心臓から『核』が右手に移動するにつれ、システィーナの鼓動は弱くなっていく。

 オレは左手から心臓に魔力を送り込む。

 『核』が失われた分をオレの魔力で補うのだ。


 大量の魔力が必要だが、一生分を補充する必要はない。

 というか、不可能だ。

 ひとまずしばらく動けばいい。

 それでも必要な魔力が多すぎる……。


 意識が持って行かれそうになる中、手の感覚が完全になくなる直前、なんとか『核』をオレの右手に移すことに成功した。


「由依! システィーナの体から手を引き抜いたら、オレの右肘を斬り飛ばしてくれ!」


 オレはシスティーナに視線を向けたまま、背後の由依に声をかけた。

 システィーナ達を護るために展開していた結界は解除済みだ。

 『核』が心臓からオレの右手に移った段階で、彼女が放つ衝撃波は止まっているからだ。


「え……?」


 由依は疑問の表情を浮かべたあと、眉をしかめた。


「頼む! 由依にしか頼めない!」


 そう言うと、由依は何も聞かずにオレのとなりにやってきた。


「わかったわ……」


 由依は発動した神器の右足に魔力を集中させる。


「たすかる」


 理由を聞かず、信頼して行動してくれるあたり流石だ。


「迷うなよ。迷ったらここにいる全員……いや、この国にいる全員が死ぬぞ!」

「う……うん……」


 由依の顔に緊張が走る。


 オレは左手を心臓に添えて魔力を供給し続けたまま、『核』にとりつかれた右手をゆっくり引き抜いた。


 右手を目視するが、やはりそこに在るものをうまく認識できない。


「由依!」

「はあっ!」


 オレの合図で由依はオレの右肘を蹴り上げた。


 つま先が頭の上まで来る美しい蹴りだ。

 舞い上がった由依のミニスカートが、黒タイツから透けて見える由依のパンツを隠すより早く、オレは自分の右手ごと『核』を球状の結界で包んだ。


 さらに、同時に準備していた治癒魔法で右腕を再生。

 そのまま、右手で『核』を包んだ結界を鷲掴みにした。


「ふう……。これでいったんは落ち着ける」

「それが『核』なの? なんだかよくわからない感じね……」


 由依がオレの額の汗を拭いてくれた。

 気付かないうちに、かなりの汗をかいていたようだ。

 久々にかなり緊張したからな。


「そうだ。オレも間近で見るのは初めてだが」


 既にオレの右腕だったものは、結界内で『核』に浸食され、消滅している。


 オレは左手をシスティーナからゆっくり引き抜いた。

 注入しておいた魔力でしばらくはもつはずだ。

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