第341話 16章:ヴァリアント・ザ・オリジネーション(25)
体内に手を突っ込んで初めてわかる。
システィーナの体から、無数の異なる種類の魔力を感じる。
『核』からではない。
あまりに多くの魔力がまざりあっているので、はたからみると一種であるかのようにみえるほど、ぐちゃぐちゃに混ざっている。
ドリンクバーで全ての飲み物を混ぜたとして、それを知らずに遠くから見た場合、そういった飲み物としか認識できないようなものだろうか。
この馴染み方は尋常ではない。
長い年月をかけて、少しずつ、様々なヴァリアントの肉片などを体に埋め込むなどすれは、この状態を作れるだろうか。
異世界でも、人間と魔族で似たようなことを実験している奴がいた。
これが『核』に適応する解だとするなら、そりゃあ適応者が少ないはずだ。
まず、ヴァリアントの肉片を移植された段階で、肉体が……下手をすると精神も耐えられない。
どれだけの失敗を重ねたのかは知らないが、最高の成功例であろうシスティーナでさえ、この有様なのだ。
理論などなく、なんども試した結果、たまたま成功しただけだろう。
これを成功と言うならだが。
心の奥から怒りがこみ上げてくるが、今はシスティーナをなんとかするのが先だ。
オレは両手の中にある心臓を解析していく。
やはりこの心臓はもう、肉の部分の方が少ない。
単純に『核』を引き剥がせば、たちまち心臓としての機能を失い、システィーナは死ぬだろう。
では『核』はどうか?
心臓の失われた部分には魔力が在る。
在るとしか形容しがたい何かだ。
魔力の塊のようであり、渦のようでもあり、ゆらぎのようでもある。
視覚を指先に繋げ、直接視てみるも、わからない。
外見は固定化されておらず、物質のようでもあり、そうでもないとも言える。
人間には、まともに知覚できない何かだ。
ここからが正念場だ。
時間がない。
オレは心臓と同化している核をゆっくり剥がしにかかる。
といっても、まともに知覚のできない何かだ。
手術のようにメスで切り離すなんてわけにはいかない。
まずは10本の指先に小さな魔力を灯す。
そして、それぞれの魔力パターンを高速で切り替えていく。
魔力のパターンには相性というものがあり、ごく稀に互いにひかれ合う場合がある。
磁石のS極とN極のようにだ。
しかしそれはとても稀な現象であり、理屈も解明されていない。
だから、取れる手段は総当たりだ。
5秒経過。
この間に試せたのは約10億通り。
オレが手を潜り込ませてあるシスティーナの傷口が治癒していく。
それに巻き込まれるように、オレの手首が彼女の体と同化を始めた。
本来なら手首を魔法で護りたいところだが、そこに割く意識と魔力の処理能力が惜しい。
6秒……7秒……。
8秒……。
手首から先の感覚が薄れて行く。
9秒……見つけた!
オレの中指に、『核』の魔力が僅かに引き寄せられた。
右手にその魔力パターンを全力で高める。
『核』がずるずるとシスティーナの心臓から離れ、オレの右手へと移ってくる。
「ぐっ……」
右手が鉛のように重くなる。
鉛などオレにとってはたいした重さではないのだが、ものの例えというやつだ。
だが、ここで魔力パターンをぶらすわけにはいかない。
100階建てのビルから垂らした糸を、地上の針の穴に通すくらい繊細な作業なのだ。
目標をセンターに入れてスイッチを押せばよい程度の簡単なものではない。
少しでも気を抜けば、システィーナの心臓からオレの右手に移動しかけている『核』は、彼女の体をズタズタに引き裂いた後、暴れ回るだろう。
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