第338話 16章:ヴァリアント・ザ・オリジネーション(22)

 システィーナがふらりとオレの方へと歩いてくる。

 首を斜めに傾け、目は虚ろ。

 だらりと剣をぶら下げただけのはずなのに、全く隙がない。


『さあ、最後のデータ取りだ。思う存分戦ってくれたまえ』

「戦う必要などない」

『キミの意志は関係ないよ。今のシスティーナは、一度襲われれば、当たりの敵を倒すまで止まらん。キミを襲うだろうし、その後は周囲の人間をヴァリアントに変え、狩り続ける。止めざるをえないだろうなぁ』


 くそっ! 『組織』のトップってのはみんなこんなかよ!

 ヴァリアントを倒すために動いているというところは日本組織と違うものの、クズっぷりは変わらない。


『キミのような強者との戦闘データを遺し、そのまま死ぬことがシスティーナの使命だ! さあ戦え!』


 システィーナがふらふら近寄って来たかと思うと、一瞬にして間合いを詰めてきた。

 地面を蹴った様子すらない。

 足の裏に集めた魔力を使って、自らを射出したのだ。

 それも、一切の派手さはなく、ただ一歩を踏み出したようにしか見えない自然さで。


 訓練で身につけた動きではない。

 圧倒的な魔力があって初めてできる芸当だ。

 これを教えられる人間など、こちらの世界にはいない。

 もしついていけるとするなら、それはオレだけだ。


 システィーナの血の剣を、オレは黒刃の剣で受けた。


『ほう……あれを受けるとは、かなりの業物よ。もしキミが殺されるようなことがあれば、回収させてもらおう』


 まったく、好き放題言いやがる。


 それにしても厄介だ。

 無限にあふれ出る魔力に、我流の剣。

 動きが読みにくい上に超高速。

 魔力もたっぷり乗っていて、かすり傷でも受ければ、傷口から何が起きるかわかったものじゃない。


 唯一の救いは、人間の体をベースに出力が制限されているせいか、あふれ出る魔力のわりにパワーが低いことくらいか。

 と言っても、『核』の影響を受けた肉体は、とうに人間の限界など超えている。


 システィーナは朱い剣を羽根でも扱うかのように、無造作に軽々と振り回してくる。

 近くにある長椅子などまるで存在しないかのように切り裂き、オレに迫る。

 切れ味だけなら、オレの剣に匹敵するかもしれない。

 その分頑丈さには劣るだろうが、どれほど刃こぼれしても、一振りするたびに再生を続けている。

 自分の血液で作っているのだから当然か。


 オレの剣も再生機能はついているが、目に見えないレベルでの刃の完全再生は、それなりに時間がかかる。


 振り下ろされた剣をオレは下からすくい上げるようにして切り上げた。


 甲高い音を立てて弾くはずだったシスティーナの剣は、オレの剣の腹をすべるように起動を変え、手元へと迫る。


 あの速度で振り下ろした剣の軌道を、オレの動きに合わせて変えた!?

 人間の反応速度の限界を完全に超えている。


 システィーナから溢れる魔力は結界内をびっしり満たし、視界を遮るほどの濃さになっている。

 戦闘に支障をきたすほどではないが……。

 いや、違う!

 この魔力がセンサーがわりとなって、オレの動きを捕捉しているのだ。

 そして、脳を通さず魔力が直接体を動かしているのだ。

 速いはずである。


 なんとか殺さずに無力化したい。

 彼女を救う可能性のある手段が一つある。

 それにはまず彼女を拘束しないといけないのだが……なかなかに難易度が高いぞ。

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