第339話 16章:ヴァリアント・ザ・オリジネーション(23)
互いの剣が交差するたび、音速を遥かに超えた剣撃は真空の刃を生み出す。
それがオレとシスティーナの体に、切り傷を増やしていく。
システィーナの動きを止めるべく、小さな爆発をおこす魔法を使ってみる。
しかし、彼女の横に直接発生させた魔法は、空間に溢れる魔力に包み込まれ、不発に終わった。
司祭達が作る空間もまた、システィーナの助けになっている。
彼女の魔力が結界内に留まり拡散しないため、その濃度を上げる結果になっているからだ。
少しずつ使う魔法を強力なものに変えてみるが、やはり不発。
――いや、発動はしているが、瞬時に相殺されている。
これ以上威力を上げると、発動した際に由依達を巻き込んでしまう。
彼女達を結界で護りながらというのも不可能ではないが、それはそれでシスティーナも無事ではすまない。
今も、斬撃でついた切り傷から、システィーナの体は腐食を始めている。
肉が腐るのとは少し違うが、過剰な魔力に肉体が負け、形をたもてなくなってきているのだ。
おそらくこのまま死ぬということはない。
だが、核の魔力によって動くだけの、ゾンビのような状態になるだろう。
二度ともとの人格に戻ることはない。
少なくともオレは、それを生きていると言わない。
数度の打ち合い。
そして魔法の不発。
オレは同じ攻撃バターンを3度繰り返した。
それも、1/120秒の狂いもなく、まったく同じパターンだ。
戦闘の重要な要素の一つに『意識配分』がある。
大雑把に言うと、攻撃に意識を割くほど防御は疎かになる。逆もまた然り。
互いの隙をつくというのは、意識の隙をつくということでもある。
しかし、今のシスティーナの意識を逸らすことは不可能だ。
そもそも彼女は無意識で行動しているからだ。
本来であれば、駆け引きも何もないそんな戦法は、スピードやパワーなど、基礎的な力がよほ高くなければ成立しない。
つまり、システィーナの動きはそれほどだということだ。
オレはシスティーナを殺さないように手加減せざるをえない。
一方のシスティーナは疲れを知らず、ミスもしない。
だが、彼女の肉体を考えると、タイムリミットは近い。
ほんの一瞬でいい。
システィーナに隙ができれば、試してみたいことがある。
またしても魔法が相殺された。
パターンに入ってから6回目だ。
司祭達の視線に、僅かな苛立ちが混ざり始める。
もちろん、オレとて無策でこんなことをしているわけではない。
そろそろか……。
オレの8度目の魔法が相殺され、システィーナが上段からの斬撃を繰り出し、オレが身を切ってそれを避ける。
システィーナの剣は石畳に僅かに触れ、その切っ先が弾かれることなく石畳に切り傷を残したその瞬間――
システィーナの後頭部を強烈な衝撃が襲い、身を切っていたオレの前を、彼女の体がすっ飛んで行った。
「ナイスだ!」
美海と手を繋いだ由依が、飛び蹴りの姿勢で空中に現れたのを横目で確認しつつ、オレはシスティーナを追うように床スレスレを飛ぶ。
この戦いが始まった直後、由依は美海の能力を使って姿を消していた。
いくらシスティーナがオレに気を取られていたといっても、普通なら早い段階で気付く状況だ。
しかし、ほぼバーサーカーと化していたシスティーナは気づけなかった。
これが無敵とも思える彼女の弱点だ。
オレが同じ行動を繰り返していたのは、由依達がしかけるタイミングをはかりやすくするためだ。
打ち合わせをしていたわけでもないのに、タイミングはバッチリだった。
さすが幼なじみである。
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