第333話 16章:ヴァリアント・ザ・オリジネーション(17)

 立ち上がったヴァリアントを見ても、システィーナは全く動じたそぶりを見せない。

 5体のヴァリアントが一斉にシスティーナへと襲いかかる。


「危ない!」


 助けに入ろうとする由依を、オレは手で制した。


 システィーナは朱色に染まった水の剣に魔力をこめた。


 すると剣が強く輝き、その刀身をはじけさせた。

 その刹那、さきほどシスティーナにつけられたヴァリアントの傷口が、光とともに大きく爆ぜた。


 3体はそのまま紫の煙となって虚空に消える。


 残った2体は再び地面に倒れ伏した。


 システィーナは鞄から先程と同じ瓶を取り出すと、中の水をヴァリアントにかけた。

 祈るように胸の前で手を組むと、ヴァリアントは傷口が肉を焼くような音をたてた。


「グアアアアァッ!」


 悲鳴をあげたヴァリアント達は、やがて紫の煙となって消えた。


 礼拝堂が静寂に包まれると、システィーナは糸の切れた操り人形のように、崩れ落ちた。

 カルロがそれを抱き留め、長椅子に寝かせる。


 オレ達も近くに駆け寄った。


「バチカン最強ってのは、カルロじゃなくてシスティーナだったんだな」

「まあね。僕だと思ったかい?」


 カルロはシスティーナの銀髪をさらりと撫でながら答えた。


「そう勘違いしてもおかしくないよう、行動してただろ」

「正確な表現だね」

「システィーナを少しでも危険にさらさないようにするためか」

「そういうこと。効果はあっただろう? バチカン最強は男だって認識してる人も多いみたいだからね」

「まあな……」


 以前会った誰かも、バチカン最強の『彼』と表現していたな。


 この場にいる誰も、それ以上口を開くことができなかった。

 気付いているからだ。

 理解できていないとすればそれは美海だけだろう。


「えっと……すごく強い結界が張ってあったみたいなんだけど、どうしてヴァリアントが出たんだろ?」


 沈黙に耐えかねたのか、美海がそんな疑問を口にした。


「システィーナが人間をヴァリアントに変えたの」


 かすれた声を絞り出したのは由依だ。

 その先はオレが引き継ごう。


 許可をもとめるようにカルロに視線を向けると、彼は小さく頷いた。


 オレは美海に太平洋での出来事と『核』について、そしてシスティーナの心臓について話した。

 システィーナの心臓については、由依も初耳だったので、オレの説明を聞いて息を呑んでいる。

 さすがに懺悔室で依頼されたことは黙っていたが。


「じゃあ、システィーナさんが生きているかぎり、まわりの人をヴァリアントにするっていうこと……?」


 美海は呆然とした顔で呟いた。

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