第332話 16章:ヴァリアント・ザ・オリジネーション(16)
「なぜ彼女を殺そうとする。大事な実験台じゃなかったのか?」
『核』を体内に宿す人間など、そうそう見つかるものではないはずだ。
「カルロから聞いたのか。理由は……ふむ、すぐに見せられそうだ」
懺悔室の外があまりに静かなことに気付く。
人の気配がほとんどない。
懺悔室を出てみると、天井画を見るためにやってきていた大勢の観光客がいなくなっていた。
残っているのは、隅で祈り続ける数人くらいだ。
これは……ヴァリアントの人払い効果!?
この礼拝堂は何重もの結界で護られている。
まず国全体を覆う結界、次美術館、そして美術館の各ブロック、さらにこの礼拝堂だ。
それらが突破された様子はないし、ヴァリアントの気配もない。
「カズ! これって……」
「急に人払いの効果が出て、みんないなくなっちゃった」
由依とその後ろから続いて美海が駆け寄ってきた。
「ヴァリアント……のはずなんだが、順番が逆だよな」
「うん、人払い効果が出るのは、ヴァリアントが出現してからのはずだよね」
由依はオレの死角をカバーするように周囲を警戒をしつつ、神器を発動した。
美海はまだ、緊張状態での発動は安定しないか。
「う……くぅ……」
その時、オレの耳は少し離れた場所にいるシスティーナのうめき声を捉えた。
カルロに背中をさすられる彼女の魔力が、突然、爆発的に増大した。
その波動だけで、カルロは吹き飛ばされた。
上手く壁へと着地したカルロだが、僅かに口から血を吐いた。
スサノオに勝てるほど……とまでは言わないが、彼と戦えそうなくらいの魔力を感じる。
今までこちらの世界で見てきた『人間』の中では、比べるのもバカバカしいほどの差がある。
彼女の魔力が増大するのと同時に、礼拝堂に残っていた人々が同時に、ヴァリアント(堕天使)化した。
その数5体。
システィーナは鞄からペットボトルサイズの瓶を取り出すと、口を真下に向け、中に入っていた水を床にぶちまけた。
いや――水は、床に到達する前に渦をまき、剣の形をとった。
彼女はそれを携えると、一体のヴァリアントへと向かう。
速いっ!
ヴァリアントの首が飛ぶ頃にはすでに、システィーナは壁に着地、その壁を蹴って次のヴァリアントへと向かっていた。
その調子で3体を斬り伏せたところで、4体目はかろうじで彼女の斬撃を剣で受け止める。
それを見たシスティーナはバックステップで距離を取り、水の剣を握る手に力をこめた。
すると、透明だった剣が持ち手の部分から朱く染まっていった。
彼女の目は虚ろで表情もない。殺戮マシーンのようだ。
オレですら思わず寒気を覚える。
再びヴァリアントへと向かうシスティーナ。
今度はヴァリアントの持つ剣ごとその胴体を真っ二つにした。
すさまじい切れ味である。
最後の1体がシスティーナの背後から襲いかかってきた。
しかし彼女は振り返ることなく後方宙返りでヴァリアントを飛び越えながら、頭部から胸元までをぱっくり切り裂いた。
音も無く着地したシスティーナは、無表情のまま倒れたヴァリアントを見下ろしている。
「すごい……一瞬で5体も……」
由依のつぶやきが、礼拝堂に響く。
今の由依ならやれないこともない。
しかし、システィーナの方が残している余力が大きい。
底が見えないと言ってもいい。
「だがまだだ」
斬られたはずのヴァリアント達が、傷を修復しながら立ち上がった。
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