第326話 16章:ヴァリアント・ザ・オリジネーション(10)

 家の中に案内されると、玄関では銀髪の少女が出迎えてくれた。

 黙ったまま、不安げで曖昧に微笑みかけてくれる。

 歳はオレと同じか少し下に見えるのだが、その笑顔はなぜか幼いものに感じた。

 耳の下で切りそろえたショートボブが、どこか背伸びしたようにも見えてしまう。


「姉のシスティーナだ」


 カルトがオレに少女を紹介してくれた。


[システィーナ、彼が今日からうちにとまるナンバカズだよ]


 紹介の後半はイタリア語だ。

 彼女が姉か。妹と言われた方がしっくりくる見た目である。


「すまないね。姉は英語が話せないんだ」


 そうか、なら。


[よろしく、システィーナさん]


 オレはイタリア語で挨拶をしてみた。


 システィーナの顔がぱっと明るくなる。


[よろしく、カズ]


 握手の求めに応じると、小さなその手は思ったより力強く握ってきた。

 うーん、やっぱり年下にしか見えない。


[随分流暢な発音じゃないか]


 そう言うカルロもイタリア語だ。オレがどの程度できるのか試しているのだろう。


[多少は勉強してきたからな。システィーナさんのこともあるし、会話はイタリア語でかまわないぞ]

[それは助かる。それにしたってそれ、けっこう勉強しただろ]

[まあ、一週間くらいだな]

[ははは、謎の多い男だな。今どきはそういうのがモテるのかね]


 カルロは冗談だと受け取ったようだが、嘘ではない。

 時間をみつけて、ちょっとイタリアに飛び、現地の人達と会話をしていたのだ。

 あとは由依達と一緒にイタリア映画を観たりな。

 おかげで由依も少しだけイタリア語を覚えたようだ。


[お姉さんも綺麗な銀髪だな]

[植毛じゃないぞ]

[いや、そんなこと聞いてないが]


 ちょっと気になったのは事実だけど。


[何を言っているのカルロ?]


 ほら、睨まれた。


 システィーナの用意してくれていた夕飯は、見てくれこそあまりよくはなかったが、優しい味がした。

 家庭の味というやつだろうか。


 それからオレ達は、互いの国や学校の話をし、夜を迎えた。


[もうねるぅ……]


 眠そうに目をこするシスティーナが席を立ち、部屋を出ていったのを確認すると、オレはカルロに向き直った。


「どういうことだ?」


 ここからは英語である。

 万が一、システィーナに聞かれても良いようにである。


「どうとは?」

「システィーナのことだ」


 正面からカルロを見つめると、やがて彼は温和な笑みを真剣なものへと表情を変えた。


「気づいたんだね」

「まあな。彼女の体、どうなってる? ヴァリアント……じゃないんだよな?」


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