第327話 16章:ヴァリアント・ザ・オリジネーション(11)
システィーナと握手をした際、人間とは違う何かを感じた。
しかし、彼女自身がヴァリアントというわけではなさそうだ。
あくまで、感知できる範囲でだが。
体の一部にヴァリアントを無理やり移植し、武器代わりに使っていた奴もいたが、そういう感じでもない。
ただ、人間のものではない大きな魔力だけを感じたのだ。
「システィーナの中には『核』があるんだ」
「『核』って……ヴァリアントのか?」
思い出されるのは、太平洋で旅客機とともにつっこんできたアレだ。
オレの問いにカルロは小さく頷いた。
「なんでそんなことに……」
「システィーナは特殊な心臓病でね。普通に心臓を移植しただけでは助からないとわかったんだ。ただ、無尽蔵に魔力を供給できる何かを、心臓に埋め込めば助かる可能性があった」
「おいおい……まさか……」
「現代にそんな魔法技術は存在しない。そんな時、『核』の小さなカケラが手に入ったんだ。ボクは『組織』に泣きついたよ。それでシスティーナを助けてくれってね」
「慈善事業でそんな貴重なものをくれるわけがないよな」
「そういうこと。ボクの一生は『組織』のものだ。だけど、それでシスティーナを護れるなら安いものさ。ただ……」
「実験台か」
「しかたのないことだよ……。『核』がなければシスティーナは助からなかった。ただ、週に一回の検査で見る彼女の辛そうな顔は……ね……」
カルロはぎゅっと唇を噛み締めた。
そんな彼にかけられる言葉をオレは持たない。
結果としてシスティーナは助かったのだ。
オレが外野から恨み言を言うのは違うだろう。
理不尽があるとすればその運命だが、そんなものは世の中にいくらでも転がっていることを、オレはよく知っている。
「そうか。余計なことを聞いてすまなかった」
オレが言えたのは、それだけだった。
「いいさ。こんなことを話せる相手もいなかったしね」
「イケメンだなあ。植毛だけど」
「そこをイジるのはひどいんじゃないかな!?」
カルロはわざと大きくおどけてみせた。
強いな、こいつ。
◇ ◆ ◇
イタリア2日目。
修学旅行の本番は今日からだ。
今日はローマ市街地の観光である。
基本的にはクラス単位で移動の時間をずらしている。
全員まとまって動ける人数ではないからだ。
クラスの中でも、なんとなく班にわかれ、そこにホストファミリーがくっついている場合が多い。
中には、ホストファミリー側の交友関係にグループが引っ張られている連中もいるようで、そのあたりのルールはゆるい。
「ふあー、これがコロッセオかあ! 天下一暗黒武道会の会場ってこんなかんじだったんかなあ! 霊弾! なんちて!」
佐藤がハイテンションでインスタントカメラをパシャパシャやっている。
ちょっと恥ずかしいので勘弁してほしい。
「ローマって、街中が遺跡なのね。すごいなあ」
由依が目を輝かせながら、周囲を見回している。
「イタリアは初めてなのか?」
「神器の調整で来たことはあるけど、街を観光するのは初めてなの」
白鳥家がかつて、由依へどういった扱いをしていたかを考えれば当たり前か。
あの鉄岩が、由依を家族旅行に連れて行くようなことをしていたとは思えない。
楽しそうなのは何よりだ。
「あなたがカズ?」
その時、急に声をかけられた。
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