第315話 【外伝短編】楽園追求(前編)
【前書き】
15章までお読み頂き、ありがとうございます。
今日の更新はちょっと箸休めの短編です。
15章の後、少ししてからの出来事です。
前・後編のあと、16章が始まりますのでお楽しみに!
【本文】
【外伝短編】楽園追求(前編)
先日オレは、由依と二人で映画を見に行った。
由依へのお礼などをかねたものである。
しかし、それを知った双葉や美海は、自分達も連れて行けと暴れ出した。
とくに美海は「私だけカズ君と一緒に映画を見に行ったことないよぅ……」と涙目になっていた。
というわけで、オレは今日、映画館の前で美海と待ち合わせだ。
まだこのころは、1スクリーンしか持たない映画館がシネコンに駆逐される前だ。
オレ達が待ち合わせをしているのも、そんな小さな映画館の一つである。
上映されている映画は3本。
これを1つのスクリーンで時間ごとにまわしている。
「お待たせ」
小走りにやってきた美海は、ふんわりしたロングスカートにカーディガンをはおった、少し上品な服装だ。
前髪で目は隠したままだが。
「いや、時間前だ」
「あ……ごめーん待ったー? ってした方がよかったかな……」
いきなりよくわからん理由でヘコむ美海である。
「そういうのはいいから。んで、何を見るんだ?」
「楽園LOSTだよ」
「それ不倫の話だろ……」
高校生が映画館に行ってまで見るものか?
というか、この映画ってけっこうエロかったはずだが、恥ずかしくないのだろうか?
年頃の男子なら、エロ本を買うのだってドキドキなのだが。
「チケット代は私が出すね」
「おいおい、高校生でそういうのはなしにしようぜ」
大人になっても、男が金を出すという風習には思うところがあるけども。
「今回は私が誘ったのだから。そのかわり、次は出してほしいな」
「え? 次回の予定はないぞ?」
「つれなさすぎじゃない!? 私の初手から次の約束をとりつけちゃおうという完璧な作戦が!」
「あんまり由依のそばを離れて遊び歩くのもどうかと思うからなあ」
「うぅ……本妻を大事にする姿……かっこいい。今日のテーマにぴったりだよ」
「感心のしかたが謎すぎるんだが」
「ほら、はじまっちゃうよ。入ろう?」
結局、支払いは別々に行い、映画館へと入った。
チケットをもぎられ、二人ならんで座れる席を探す。
自由席であり、立ち見も可能な映画館なのだ。
とはいえ、すでに大手の映画館では公開終了して数ヶ月たつ映画である。
いくら社会現象にまでなりかけた人気作とはいえ、さすがに空席が目立つ。
オレと美海は、中央やや後方の席に決めた。
予告編のあとに本編が始まる。
既婚の男性が、二人の女性に振り回されながらも不倫にまつわるあれこれをしていくストーリーだ。
何より話題になった特徴は、有名女優の濡れ場だ。
端的に言えば、エロシーンてんこもりである。
小さな映画館は、イスもまた小さい。
並んで座ると、肘が触れ合うくらいの狭さだ。
美海はスクリーンに目をやらながら、手をそっとオレの方へとにじりよせては、ひっこめることを繰り返している。
だがやがて、官能的な濡れ場がやってくると、美海は食い入るようにスクリーンに集中し始めた。
美海の体内で魔力が練られていく。
おいおいまさか……。
オレの懸念は的中し、美海の神器が発動した。
映画のエロシーンに興奮しやがったな。
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