第314話 15章:赤のフォーク(28)

 部屋の壁を魔法で修復した後、逃げた由依をあっさり捕まえた。

 顔を真っ赤にしたまま目を白黒させる彼女を背中に乗せ、オレは朝焼けの空を翔けている。


「ありがとな。知ってもらえて楽になった」


 結界で風きり音を消し、背中の由依に語りかける。


「うん」


 由依はオレの耳元で小さくそう言い、きゅっと抱きしめてきた。

 背中に柔らかい膨らみが押し付けられる。


 隠していたことを怒ったり、悲しんだりしているかもしれない。

 だが、それについてオレを責めることはなかった。

 こうなると、むしろ由依の負担になるとも思うのだが、それを言う方が彼女は怒るだろう。

 ならオレのすべきことは、他のところで彼女をケアしたり護ったりすることだ。


「由依」

「なあに?」

「『メケメケ王女』がまだ上映してるみたいなんだが、一緒に行かないか?」


 メケメケ王女とは、世界に誇るアニメスタジオ『スタジオずっぽし』の映画作品だ。

 神通力を持った良質な革の素材になる神獣メケメケと、それに育てられた女性に主人公が出会い、あれやこれやをするストーリーである。

 一回目の人生で何度も見たので、映画館に行くつもりはなかったのだが。


「それってデート?」

「んん? 一緒に映画に行こうってだけだよ」


 すっとぼけてみせる。


「二人で、だったらいいよ」


 みんなでというのを先に封じてきた。

 今回は由依へのお礼とケアをかねているので、みんなで行くつもりはない。

 双葉や華鈴さんへの説明は必要だけどな。


「そのつもりだ」


 オレの返答に、背中で少し驚く気配がした。


「じゃあいく」


 あえて平坦な声でそう答えた由依だが、しっかり嬉しさがにじみ出ていた。

 それだけでオレの心も穏やかになっていく。


 オレは一気に高度を上げ、雲を抜けた。

 水平線の向こう側にちょうど水面を離れる太陽が見える。


 凍えてしまわないよう、断熱のために結界をはりつつ、ゆっくり飛ぶ。


「きれい……」

「そうだな」


 オレ達はしばらくの間、そうして朝日を眺めていた。

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