第316話 【外伝短編】楽園追求(後編)

 着ていた衣服が破け、えっちなバニーガール姿になった美海は、すぐに周囲から存在を隠す能力を使った。

 能力の効果範囲にはオレも含まれている。

 まわりの人間からは、オレ達二人などいないかのように見えているはずだ。

 そこに美海がいると確信された上で触れられると能力は解除されてしまうが、多少の音をたてたところで気付かれることはない。

 強力な技だが、美海の本能がむき出しになるという弱点も備えている。


「ね……私達も……ね……」


 神器発動の影響で煩悩に支配された美海は、スクリーンに流れる映像と同様、オレの膝に向かい合うようにして座ってきた。

 前が見えないんだが?


 美海が頬どうしが触れあう距離で、ふっとオレの耳に息をふきかけてきた。

 ほどよくふくらんだ胸が押しつけられる。


「私達も不倫しちゃいましょ」


 とても小さな声で囁いてくる。

 それがまたむずがゆい。


「まずオレは結婚してないぞ。美海もだろ」


 オレも小声で返す。

 もしこれが他人から見えていたら、映画館囁きあう迷惑なバカップルに見えただろう。

 出禁になってもおかしくない。


「不倫ごっこでもいいんだよ」

「不倫願望でもあるのかよ」

「私はきっと一番にはなれないから……。なら、二番はキープしたいもの。でも、ある意味一番にはなれるかもね。由依ちゃんができないこともいっぱいできるよ」


 美海はバニースーツの胸元を少し下ろした。

 もう少しで見えてはいけない先端まで見えそうだ。

 薄暗い映画館でも、オレの目は昼間よりはっきりと全てを見通せる。


「そのへんにしといてくれ」

「まだ由依ちゃんとはつきあってないんでしょ? 不倫の練習しとこうよ。きっと由依ちゃんも公認してくれるよ」

「どういう理屈なんだ」

「恋人が他の人としちゃうのに興奮する人もいるらしいし」

「美海のことか?」

「え……? あ……そういうのもいいかも……。でも、由依ちゃんとだけにしておいてね? 他の人とはイヤだよ?」


 いかん。また新たな性癖に美海を導いてしまいそうだ。

 神器発動時の美海は、本当に思考がぶっとんでるから困る。


 頬にキスをしようとしてくる美海から顔をそむけ、美海の体に距離を取らせようと手を前に出すと、そこには柔らかい感触があった。


「んんっ……もっと優しくして……」


 身をくねらせてみせる美海は、オレが肩を押してくるのを察知し、膝出ちになったのだ。

 ちょうどオレの手が胸の位置に来るようにである。

 いつの間にこんな技を!

 本能でやっただけな気もするが。


「たくさん触ってくれてもいいんだよ?」


 オレの手を掴み、ぎゅっと自らの胸に埋めさせてくる。

 さらにそのまま胸をオレの顔の前へと近づけてきた。

 いかん。このへんにしとかないと、オレの理性があぶない。


 オレは胸から魔力を送り込んだ。


「はうっ!?」


 恍惚の表情を浮かべた美海はそのまま気絶する。

 同時に神器の発動が解け、素っ裸の美海がオレにくたりともたれかかってきた。


 このままでは周りの客に見られてしまう。


 オレは美海に自分の上着をかけつつ、認識阻害の結界を展開。

 そのまま美海を抱えて映画館を出た。


 ちょっとだけ映画のラストが気になりつつも、白鳥邸へと飛んで戻った。


 なおその後、素っ裸になった美海について、由依と双葉から長い尋問を受けることになった。

 その間、美海はなぜかオレの上着一枚でもぞもぞ興奮している様子だったことを付け加えておく。

 さすがの由依と双葉も、そんな美海を横目で見ながらツッコめずにいたのだった。

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