第311話 15章:赤のフォーク(25)

 人間社会に溶け込むことができるヴァリアントほど、強力な個体である傾向が強い気がする。

 長くヴァリアントでいるからなのか、強力な個体ほどそういった行動を取るのかはわからないが。


 オレは黒刃の剣を出現させ、戦闘態勢に入る。

 由依は屋上に着地したであろう時から神器は発動しっぱなしだ。


「がぁっ!」


 オオゲツヒメの頭と、口の形に開いた右腕がオレに向かって伸びてくる。

 さらに右脚が由依へ向かう。


 前回のような様子見はなしだ。

 オレは二つの攻撃を避けながら、首と手首を切り落とす。

 さらにそれらが地面に落ちる前に結界で包み、焼き尽くした。


「はぁっ!」


 一方、オオゲツヒメの脚を、由依は身をかがめて避けていた。

 そこからオーバーヘッドキックの要領で、ミニスカートを翻しながら、オオゲツヒメの脚を黒タイツの神器で斬り飛ばす。

 オレはその脚が地面に落ちる前に、首や腕と同じように、結界に包んで焼き尽くした。


 しかし、胴体に片脚だけで立つオオゲツヒメの本体からは、未だ魔力が発されている。


「まさかここまでとは……驚きました」


 オオゲツヒメの首があった場所のすぐ下に横筋ができたかと思うと、牙の生えた口ができあがった。

 こいつ、本体であればどこにでも口を作れるのか。


「私がエネルギーを吸収できると知って、剣での攻撃に切り替えるところまではみな同じですが、人間でこうもあっさり私の体を斬ることができる者は初めてです」


 そう言いながら、オオゲツヒメは手足と頭部を再生させていく。

 残った体から肉体を補充しているらしく、再生に合わせて全身が痩せこけていった。


「そんな体じゃもう戦えないだろ」

「それはどうでしょう? あなたはともかく、神器越しとはいえ、私の体に近づき過ぎた彼女は、無事ではすまないようですよ?」


 はっと振り向くと、由依が荒い息をしながら倒れるところだった。

 オレは一瞬で由依のとなりに移動し、抱き止める。


 これで隙をついたつもりだったのだろう。

 オオゲツヒメは、気絶している黒服へとおどりかかった。

 食料を補充するつもりか。

 腕を伸ばさなかったところを見ると、むりやり再生させた体の部分は彼女の特性を使用できないようだ。

 オレがここに来た時、片腕を再生させていなかったのもそれが理由だろう。


 いずれにせよ、逃がすつもりはない。


 オレは剣の切っ先から光の刃を伸ばした。

 だがオオゲツヒメもそれは予測していたらしい。

 振り返ったオオゲツヒメは、口で光の刃を止めた。

 刃の先から魔力が吸い取られていく。


 オレの強力な魔力を得て、オオゲツヒメの血色がみるみる良くなっていく。

 ニヤリと笑う彼女だが、それでもオレは術を解除しない。

 刃の先を鋏のように二つに分け、頭部を上下に切り裂いた。


「こんなのすぐに再生して――」


 皆まで言わせず、オレは光の刃でオオゲツヒメの全身を細切れにした。

 さらに刃を無数の針に変化させ、万を越える肉片全てに突き刺す。

 そして、それ自身が熱源となった針が、肉片達を焼き尽くした。


 ここまでやれば復活もできないだろう。


「んんっ……カズ……」


 頬を紅潮させた由依が、オレの腕の中で体をビクンビクンと震わせている。


「由依!」

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