第307話 15章:赤のフォーク(21)

 アオザイ姿の美女につれられて入ったビルの間取りは、ビジネスホテルのそれだった。

 ホテルと違うのは、ドアが取り外され、入口はカーテンで仕切られていることだろうか。


 手持ちぶさたになり、とりあえずベッドに腰掛けると、女性がとなりに座ってきた。

 もともとかなりの大きさだが、衣装によって強調された胸がオレの腕に押しつけられる。


「シャッチョさん、スッキなプレイは? シャワーあびるデショ?」


 まだ二十代になったばかりだと思われる片言の女性は、あどけない笑顔で首をちょこんと傾げた。


「ちょっと話がしたいんだ」

「……コトバゼメ?」

「ちがうって」


 そういうお客さんも来るんだろうか。


「お金、もらわないとイケナイ」

「大丈夫。ちゃんとお金は払うから」


 オレは財布から一万円札を2枚取り出すと、ナイトテーブルの上に置いた。

 いざという時のために持ち歩いていたものだ。

 壁に貼られた料金表に少し色をつけてある。


「ならイイヨ」


 それでは仕事にならないなどと言われなくてよかった。


「お金を払えば、妊娠してもらえることってできるのかい?」

「ヒト呼ぶヨ」


 女性は枕元のブザーらしきボタンに手を伸ばした。


「待ってくれ。別にオレがそうしたいってわけじゃないんだ。話がしたいと言ったろ?」

「…………」


 女性の笑顔はどこへやら。

 完全にこちらを危険人物として認識している。


 聞き方がストレートすぎたか。


「そういうお願いをする客っているのかなって、ちょっとした好奇心だよ」

「いる。でもダメ。ゼッタイしない」

「そうだよなあ。でも、客からじゃなく、オーナーから依頼されたりなんてことは……?」


 女性の眉が一瞬ぴくりと動いたのをオレは見逃さなかった。


 オレはあくまで世間話な雰囲気を崩さずに、一万円札をもう一枚置いた。

 バイトで稼いだ金が消えていく……。


「そういうコトはあるって、ウワサは聞いたことアル。ワタシが言ったとナイショにしてよ」

「もちろんさ。実際に妊娠した娘は戻ってくるのか?」


 女性は不安げな顔で首を横に振った。


 なるほどな。

 少し見えてきたぞ。


 じゃあ次にすることは……。


 オレは女性の腕を取って立たせると、枕元にあったペンを彼女の首筋に突きつけた。


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