第306話 15章:赤のフォーク(20)

 研究所を出たオレは、一緒に来たがる美海を家に帰した。

 それと同時に、開発室にかかってきた電話の発信元を由依に調べてもらう。


 結果はすぐに出た。さすがは白鳥家だ。


 オレは一人で電話の発信元へと向かう。

 経験をつませるという意味では誰かを連れて行った方がいいのだが、果樹園の地下でしたことを考えると、どうしてもそれはできなかった。

 あれをやったのがオレだと、ヴァリアントから指摘される場面は来るだろう。

 そのことで、オレを責めるようなことはきっと誰もしない。

 だが情け無いことに、知られたくないと思ってしまう。

 彼女達からすれば、信頼してもらえなかったと感じるかもしれない。

 それに、少なくとも由依は、既に察しているのかもしれない。

 それでも、言葉にして突きつけられるところを見られたくはなかった。



 電話の発信元は、関東から少し離れた場所にある小島だった。

 空を飛んできたオレは、できるだけ人気の無い浜を探して、静かに着地した。

 上空から見たところ、直径数キロの島には不釣り合いなほど、たくさんのビルや建物がひしめいていた。

 その多くは外装も剥がれ、メンテナンスされているとは言いがたいが、廃墟というほどでもない。

 どの建物にもこうこうと灯りが灯っている。


 だが、島全体的に流れる怪しい雰囲気はなんだろう。

 新宿歌舞伎町ともちがう、まったりとした耽美な空気が流れている。


 オレは街の中を、目的地に向かって歩いていた。

 何かあった時、地の利で負けないよう、軽く周囲の状況を確認するためだ。


 街に並ぶ平屋の建物は、店構えこそ旅館風なものの、少々特殊な造りをしていた。

 外に向かって中が見えるように大きく開かれた引き戸の向こうには美女が座り、道行く男達に向かって妖艶な笑みを浮かべている。


 もしかしてここ……島ごとそういう街なのか……?


 よく周りを見渡すと、歩いているのは裕福そうな男性が殆どだ。

 男達は値踏みするように、美女達を見て歩いている。


 高級娼婦だけを扱う島?

 いや、そうとも限らないようだ。


 少し離れた路地には、東南アジア系の顔立ちをした女性達が立っている。

 彼女達と腕を組む男性が、近くのビルへと入って行った。

 表の通りに比べ、客の身なりは庶民寄りである。


 オレの目的地は、そんなビルのうちの一つだ。


 島の地形を把握したオレは、目的のビルから出て来た女性の前を通りがかってみる。


 …………無視された。


 やばい。作法がわからんぞ。


 途中までは客のフリをして入り込もうと考えていたのだが、いっそ忍び込んでしまおうか。

 いったいここが何なのか、情報収集をしておきたいんだがな。

 いや、変な下心とかはないよ?


 ビルの前を行ったり来たりするオレの前を、何人かの女性が通り過ぎていく。


 あ……そういやオレ、見た目高校生だったわ。

 そりゃあ無視もされるワケである。


 オレは次に来たアオザイ姿のセクシーな東南アジア風美人に、認識阻害を応用した魔法をかけた。

 彼女からは、オレがちょっとおじさんに見える魔法である。

 異世界で仲間が変装に使っていたものを拝借してみた。


「シャッチョさん、オヤドはキマってる?」


 釣れた!

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