第303話 15章:赤のフォーク(17)

 オレはこの場の魔力的な痕跡を全て採取し、機材などの形状も詳細に記憶していった。

 ポッドを1つばらばらに分解し、ネジの一本にいたるまでだ。

 ポッドの先にある、液体の注入機材なども見ておく。

 完全記憶の魔法あっての芸当である。

 液体の組成までは分析できないので、サンプルをとっておく。


 さて……。

 地下施設から地上に出たオレは、施設を覆うようにして、直方体の結界を張った。

 待つことしばし。


 地上には何も反応はなく、虫の音だけが聞こえてくる。

 オレは結界を解除し、浮遊魔法で再び地下へと下りた。


 そこには、時限式の火炎魔法によって、結界の形に綺麗に焼き尽くされた空間があった。

 強化ガラス製のポッドも全て一度融解し、中の人間は跡形もない。


 天井からぱらりとコンクリートのカケラがおちてきた。

 このままでは崩れてしまう。


 オレは新たに壁としてむき出しになったコンクリートを魔法で融かし、崩れかかっていた部分を補強する。


 先程までとはうってかわって、がらんとした空間ができあがった。

 それでも、オレの記憶には、ポッドに入った人達全員の顔が鮮明に残っている。


 暴れ出したくなる衝動を抑え、小さく深呼吸をすると、その場を後にした。


◇ ◆ ◇


 オレ、由依、双葉、そして華鈴の四人は、朝靄の中、六条家のリムジンで果樹園を走っていた。

 華鈴が現場で、地下施設をどうするか話すためだ。


 そして、地下施設に到着した華鈴は呆然としていた。

 きれいさっぱりなくなっているのだから当然だ。


「夢でも見ていたんですの……?」

「それならよかったんだけどね。きっと、魔法か何かで焼かれたんだよこれ。証拠隠滅……かな?」


 華鈴の疑問に、壁を調べていた由依が答えた。


「地上に影響を与えず、地下だけを……?」


 しばらく思い悩んでいた華鈴だったが、やがて大きく息を吐いた。


「こんなことができるなら、どんな警備をつけたところで無駄でしたわね」


 決して口にはしないが、その表情にはほんの僅かに安堵が見え隠れする。

 昨晩から気が張っていたのだろう。

 薄めの化粧で隠しているが、くまができている。


「となると、次は研究所についてですわね。昨晩のうちにある程度、情報は集めていますの。続きは事務所でいたしましょう」


 華鈴はそう言って、オレ達に背中を見せた。


「カズ……」


 一方、由依はオレの手をそっと握ってきた。

 その目は哀しみではなく、オレを気遣っているようだ。


 オレがやったことに気付いたのだろうか。

 由依ならありえる。


 しかし、ここで何も言わずにいてくれるのもまた、由依の優しさなのだ。

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