第304話 15章:赤のフォーク(18)
◇ ◆ ◇
華鈴さんから情報を得たオレは、六条グループの研究施設に潜入していた。
今回は姿を消す能力を持つ美海だけを同行させている。
正面突破するならオレだけで十分なのだが、セキュリティをくぐり抜けてとなると話は別だ。
深夜に忍び込むことも考えたが、どうせなら研究所が稼働しているところを見たい。
ロックのかかっていないPCを触れる機会もあるかもしれないしな。
華鈴さんから、マスターキーなどを手に入れてくるのはどうかという申し出もあった。
しかしそれはこちらの動きをグループ側に知らせることにもなる。
これは最後の手段だ。
ということで、美海の能力で姿を消したオレ達は、研究所のロビーにいた。
バニーガール姿の女子高生と手をつないで企業の敷地に立つという、なかなかにトンデモな状況ではあるが、他の人からは見えていないのでセーフだろう。
すでに就業時間はすぎているが、3階建てのビルの中では、かなりの社員が残業をしている気配がある。
このあたりは華鈴の情報通りだ。
ほどよく人の動きが減り、いざとなったら宵闇にまぎれられるこの時間を選んだのは正解だった。
「ふふふ……まるで殺しのライセンスを持つスパイみたいですね。あの映画といえば、ヒロインと主人公のえっちなシーン……ふふふ……ふふ……」
美海は一人でトリップ気味だが、能力を発動してくれている分には放っておこう。
研究所内は、区画ごとにセキュリティが設置されていた。
その殆どは、カードキーで自動ドアが開くタイプだ。
オレと美海は、移動する職員にピッタリついて、それらのセキュリティを越えていく。
姿と気配を消していること以外は、アナログな方法だが、だからこそ確実でもある。
全国にいくつもの研究所を持つ六条グループだが、バイオ関係はここに集中している。
中でも、最もセキュリティが厳しいのが、この第6開発部だ。
開発室に入るためには、一畳程度の狭い検査ブースを通る必要がある。
小部屋には金属探知機、サーモグラフィーカメラ、そして床には感圧センサーが仕込まれている。
必ず一人ずつしか室内には入ることができず、記録メディアの持ち込みも禁止だ。
事前に情報を得ていなければ、うっかり通りすがりの研究員とともに入って警報が鳴り響くところだった。
よく一晩でここまで調べてくれたものだ。
オレは職員が検査ブースに入っていくのについていく。
美海が心配そうな顔で見上げてくるが、小さく頷いてやると、猫のように顔をオレの肩にこすりつけてきた。
見た目はバニーなんだがな。
もちろん、このままブースに入れば、まず床の感圧センサーによる重量オーバーで警告が出てしまう。
オレは美海を抱えると、ひょいと跳躍。
足を開いて両方の壁につける。
美海がぎゅっとだきついてきて、やわらいものがあたりまくるが、ここからが集中ポイントだ。
飛行魔法を使わなかった理由は簡単。
風系の飛行魔法では、床の感圧センサーを突破できないからだ。
感覚的には浮いていれば床に圧力はかからないように思えるが、しっかり感知される。
もしできるなら、体重計の上に置かれた密閉された箱の中で、鳥が飛び立つとどうなるかを実験してみるといい。
もっと高度な飛行魔法を使えば、地面に影響を与えないことも可能だが、建物内にヴァリアントがいた時のことを考えて、できるだけ大きな魔力は使いたくない。
せっかく忍び込んだのに、そこから探知されては意味がないのだ。
次に、サーモグラフィ-対策だ。
オレと美海の体表面に魔法で薄い膜を展開。
それを室温に合わせる。
これで周囲の温度に溶け込んだはずだ。
金属探知機にひっかかるようなものは持ってきていないので問題無い。
事前情報で対策済みだ。
美海じゃないが、たしかにスパイ映画みたいでちょっとわくわくする。
異世界じゃ、科学を相手にすることはなかったからな。
魔法も物理現象である以上、科学といえなくはないのだが。
かくして第6開発室に入ることに成功したオレは、思わず顔をしかめた。
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